あすは台湾か

「きょうはウクライナ、あすは台湾」
 そんなことばが台湾のネット上に飛び交っています(Watching the War in Ukraine, Taiwanese Draw Lessons in Self-Reliance. March 1, 2022, The New York Times)。

 ロシアの侵略がはじまると、台北ではロシア代表部の前で200人がウクライナ支援の集会を開きました。参加者のひとりの青年はいいます。
「ウクライナを見ると、中国も台湾侵略の口実をかんたんに見つけると思う」
 台湾を侵略するのに、口実なんかいらないという意味でしょう。ウクライナのNATO加盟を許さないといって戦争に踏みきったプーチンと、台湾の独立を許さないと軍事行動をちらつかせる習近平と、どちらもそこに住んでいる人の意思を踏みにじることに変わりはない。

(Credit: othree, Openverse)

 かねてから台湾では、中国の侵略にどれほどの可能性があるか、台湾の防衛力はどうなっているかといった議論がつづいています。ウクライナ戦争で西側が弱腰なのは、中国を強気にさせるという人もいれば、そんなことをいうのは不安をあおるだけだという人もいる。
 欧米諸国がウクライナに派兵しないのを見て、チャーリー・マーさんという医師はいっています。台湾有事には自力で臨むしかない、もし中国が侵略してきたら自分は従軍医師になる。
「ウクライナの教訓は、他人に頼るなということだ」
 軍事攻撃が迫っているとは思わないけれど、マー医師は何かの偶発的な事件が戦争を引き起こすのではないかと心配しています。

 戦争がはじまってから5日目の2月28日は、台湾にとって特別な日でした。
 1947年、中国大陸から台湾に来た「外省人」が、台湾在住「本省人」の蜂起を武力で鎮圧し、数万人といわれる犠牲者を出した二・二八事件の記念日です。
 式典に参列した蔡英文総統は、「ウクライナ国民は、強大な国の侵略に対してともに立ち上がった」と指摘し、台湾人の団結を呼びかけました。とはいえもちろん徹底抗戦や台湾独立を主張したわけではない。もしも台湾総統が独立を宣言したら、その瞬間に中国が台湾への軍事行動を起こすでしょうから。

 台湾人の学者、呉叡人さんがいうように、台湾は「孤立無援の島」です。
 ウクライナのような、主権が認められ国連の一員となった国ではない。アメリカが台湾を支援するといっても、有事に際し派兵などするはずがないと台湾人は知っている。
 孤立無援。けれど高度な民主主義が根づき、花開いた島。
 自力で臨むという台湾人の思いには、無数のひだが折りこまれています。
(2022年3月2日)