かすむ社会の主流

 ここにもいましたか。
 そう思いながら、朝日新聞「ひと」欄の1月8日の記事を読みました。
 北海道旭川市の、「北の森づくり専門学院」に引きつけられた人です。
 亀山陽司さんという41歳の元外交官が、外務省を辞めてこの専門学校に入り、今春卒業して「森づくり」をはじめると書いてありました。

朝日新聞・ひと欄(1月8日)

 東大を出てロシアに7年も駐在したキャリア外交官が、なんでまた樵(きこり)なんかになるのか。それは子どもが3人できたので、もっと家族いっしょの時間を過ごしたいからということでした。

 おお、いいなあ。なんと魅力的な人生か(そうですよ、外務省なんてひどい役所にいたら人間じゃなくなる。ぼくは外務省を辞めた人、何人も知ってます)。
 しかも森づくり。生き方がすばらしい(農家も漁師もすばらしいけど、樵も、ね。精神科医の川村敏明先生も森に心酔して、チェーンソーを持ってまねごとしてます)。

 そんな思いをめぐらすのは、元外交官が転進の足がかりとした北海道立北の森づくり専門学院が、またじつに魅力的なところだからです。

北海道立北の森づくり専門学院
(北海道庁サイトから)

 道立の、森づくりの専門家を育てる場。
 2年制、1学年40人の小さな学校だけれど、世界最先端「フィンランドの森づくり」をめざします。2020年にできたばかりで、元外交官の亀山さんは第1期卒業生になるとか。

 じつは、この学校に入学するもうひとりの若者がいます。
 浦河ひがし町診療所スタッフの子、しんちゃんです。しんちゃんは今春、高校を卒業したら旭川に行き、この学校に入ります。もちろん本人自らが希望して。

 しんちゃんは受験競争を勝ち抜くのとはちょっとちがうタイプです。一般的な大学に行ったら、そして一般的な就職をしたら自分を見失ってしまうかもしれない。でも「森づくり」ならきっと輝くだろう、そういう高校生です。適性を見抜いた学院が、合格を出しました。
 彼がこれからどんな森の物語を語って聞かせてくれるか、ぼくはいまからこころ待ちにしています。

 外務省を辞めた亀山さんもしんちゃんも、競争社会の主流からははずれた人たちでしょう。少なくとも主流からはそう見える。でも大事なのは主流からどう見えるかではなく、自分はどう見るかです。きっと、はずれることはより人間的になることなのです。

 森づくりの学校、いいなあ。
(2022年1月8日)