アイルランドにも、オオカミとともに暮らしたいという人がいます。
自然保護の一環として。アイルランドの場合は自然保護というより自然回復でしょうか。BBCが伝えています(Can Ireland return to its former wilderness? By Chris Baraniuk, 12th February 2021, BBC)。

アイルランドはかつてゆたかな自然がありました。全土の80%が森林だったといいます。それがいまでは1%にまで減り、森林の面積率はヨーロッパ最下位だとか。
無理もありません。この国は19世紀に人口の4分の1、百万人が餓死した大飢饉があり、森林のほとんどは農地になりました。一面に緑が広がる国だけれど、それは自然の緑とはちがうというわけです。そこに少しでも本来の自然をとりもどそうとする動きが進んでいます。

森を増やし、失われた植生を回復する。
でも森だけでは十分ではない。動物たちにももどってきてほしい。
というわけで、自然林を増やそうとする動きとともに、2001年にはイヌワシがヨーロッパ大陸から導入されました。いまはスペインからヤマネコを再導入するなど、あれこれの案が検討されているようです。

でも、と、環境団体「アイルランド野生動物トラスト」のパドライック・フォガティさんはいいます。
「私自身やりたいことをひとつあげるなら、それはオオカミだ」
アイルランドで250年前に絶滅したオオカミを、ふたたびアイルランドの森に復活させたいとフォガティさんたちは考えています。

BBCは、オオカミ再導入の声は起きているけれど、まだ公的な議論にはなっていないといいます。オオカミを危険視する人も多いので、実現までの道は遠い。けれど1995年にオオカミの再導入をはじめたアメリカでは、その後順調にオオカミが増え、シカが減って自然環境が回復しています。人が危害を受けたというニュースは聞いたことがありません。ていねいな議論を積みかさねてゆけば、オオカミの再導入はアイルランドでも十分に可能でしょう。
自然保護を考える人びとにとって、オオカミはたんに守るべき、回復すべき自然の一部ではないようです。彼らはオオカミとともに生きるという、その「生き方」に象徴的な意味を見いだしているのではないでしょうか。
アイルランドでも、少なくとも環境運動家のなかにはそのような生き方への希求があると思うと救われます。二つの大陸を隔て、その両端でぼくらはおなじことを考えているんだなと。
(2021年2月18日)