きのう、日本で女性の自殺が増えていると書きました。
この現象は日本より海外での注目度が高く、ニューヨーク・タイムズ(2月22日)もBBC(2月18日)も取りあげています。どちらも日本で10年ぶりに自殺者が増えたこと、男性は変わらないのに女性の自殺だけが増えたことに注目しています。
BBCは、横浜で若い女性の自殺防止に活動している「ボンド・プロジェクト」や、自殺研究の専門家、早稲田大学の上田路子准教授、NPO「ライフリンク」や自殺者の遺族などに取材しています(Covid and suicide: Japan’s rise a warning to the world? BBC News, Tokyo, 18 February, BBC)。

そこから浮かびあがるのは、リーマンショックのような経済不況では中年男性の自殺が増えたけれど、今回はまったくパターンがちがうということ。コロナ禍は男性よりも明らかに女性を追い詰めているということでした。
女性の不安定な臨時雇用や家事、育児の過重な負担、家庭内の虐待や暴力にコロナが追い打ちをかけている。
背景には、ますます多くの女性が結婚せず一人暮らしをするようになったという社会変動もあります。女性のひとり暮らしは、本人たちがそれを選択したというより、いまのこの社会ではそうせざるをえなくなるという側面が強いように思います。

ところでBBCはレポートのなかで、「自殺について報道するのはむずかしい」と率直にいっています。ジャーナリストにはよくわかるコメントです。
ぼくもかつて自殺について専門家に取材したことがありました。
そこで驚いたのは、「自殺はむずかしい、何が自殺かわからないから」といわれたことです。
え? だって自分で死んじゃうのが自殺でしょ。
そうじゃない。あらためていわれてわかりました。もしもうつ病がひどくなって死んだら、それを自分で死んだといえるだろうか。ひどい虐待から逃れようとして自ら命を絶っても、それは自殺なのか。警察庁の統計上は自殺でも、真の原因はちがうとき、あるいはそうとしか思えないとき、ぼくらはそれを何といえばいいのだろう。
今回もまたそうです。
コロナで自殺といっても、その背後に女性を抑圧する圧倒的な社会構造があるなら、それは「コロナで自殺」っていえるんだろうか。
ジャーナリズムにとってさらに問題なのは、メディアが「自殺問題」を報じれば報じるほど、現実の自殺を誘発しかねないということです。BBCが「むずかしい」といっていたのはこの側面に気づいたからだろうと思いました。
(2021年2月27日)