めずらしくアメリカ映画を見ました。
見たあとで考えこんでしまう。そういう非ハリウッド的な映画です。
ケリー・ライカート監督の「ミークス・カットオフ」。西部開拓時代の1845年、西海岸に近いオレゴン州を舞台にした物語でした。
白人の3家族が、幌馬車を連ねて新天地への旅に出る。ガイド役としてミークという先住民を雇った。ミークは目的地への近道を知っているはずなのに、一行はいつまでたっても目的地に着かない。疑心暗鬼になった3家族とミーク、その対立がしだいに緊張感を増す上質なサスペンスです。

映画のタイトルにあるカットオフは、近道を意味します。
でも現実に幌馬車の一行がたどるのは、遠回りの道です。映画もまた、ハリウッド的な派手さはなく、筋書きが遠回りしつづけます。劇的なアクションや驚天動地の結末もない。それでどうなるのかというと、要するに結末にはたどり着かない。表面的には。
ふつうだったら、あ、つまんない、映画代1400円損した、となる。
ところが「ミークス・カットオフ」はそうはならない。金を払っただけのことはある。十分に。
まず冒頭の、幌馬車隊が荒野を進むロング、この映像のオーバーラップのすばらしさだけでも1400円の価値はあります。

もちろんそれだけではない。この映画の本当の価値は登場人物の描き方にあります。わかりやすい類型に陥らない先住民や女性の描き方、それが文学的な深みに達している。だから海外の映画祭で賞をとりながら、シネコンで上映されることはなかった。ミニシアターの映画なのです。
監督のケリー・ライカートさんは、これまで日本であまり知られていませんでした。
それが去年、これまでの作品をまとめて上映する企画があって注目され、このほど川崎市で開かれた「しんゆり映画祭」でも上映されることになったようです。
女性監督だけに、「ミークス・カットオフ」でも女性を描くことで映画に命を吹き込んでいる。主演のミシェル・ウィリアムズがよくその期待に応えています。

(アルテリオ映像館、川崎市)
見終わった直後にふっと頭に浮かんだのは、この映画には「感動がない」ということでした。
感動がない映画をつくるって、すごいことです。
ライカート監督は、ただただ人間の自由を表現したかった、だから感動なんて余計なものを入れたくなかったのかもしれない。
映画館を出て、そんなことを考えました。
(2021年11月5日)