「美白」をめぐる論争が起きたのは去年のことでした。
BLM、ブラック・ライブズ・マター運動の影響です。BLMは2013年にはじまっているけれど、去年5月25日、ミネアポリスで黒人のジョージ・フロイドさんが警官に殺害されて一気に噴き出しました。連帯の輪は全米に、というか世界各地に広がっています。
その直後の6月、ジョンソン・エンド・ジョンソンやロレアルなどの大企業は化粧品から美白という表現を削除しました。美白、英語ではホワイトニング whitening は、「白い方がいい」、すなわち白人優位を想起させるから。
日本でも多少の議論はあったけれど、広がらなかった。
日本の化粧品メーカーは依然として美白をうたっています。美白は日本の伝統、それが問題だなんて「ことば狩り」という反論もあったり。

でもグローバル化した大企業はけっして「わきまえて」なんかいない、もっとずっと先を行っています。こんどはユニリーバ社が「ふつう、っていうの、やめます」と発表しました。ふつう、英語ではノーマル、このことばをすべての製品から撤去すると、ニューヨーク・タイムズが伝えています (Maker of Dove Soap Will Drop the Word ‘Normal’ From Beauty Products. March 9, 2021, The New York Times)。

ユニリーバは日本でもダブやラックスなどの石鹸、化粧品で知られている大メーカー。
200あまりの製品の表記と、広告宣伝をふくめたすべての企業活動でノーマル、ふつうということばを使わないと決めたのは、いまや消費者のほとんどが「自分は“ふつう”にあてはまらない」と考えているからだそうです。
これ、アメリカやブラジル、中国など各国の1万人の消費者の調査から浮びあがった結論だとか。
へええ、各国の消費者ってかしこいんだ。
そのかしこさをすくい取った企業の、ただちに反応するアグレッシブさ。
日本の外では、日本にない動きが起きている。

(同社ウェブサイトから)
ユニリーバ社のサイトをのぞいたら、ちゃんと書いてありました。
Say no to ‘Normal’ and yes to Positive Beauty.
ふつうじゃなくて、自分の美。黒くても白くても褐色でも。ヴィーガンでもストレートでもLGBTQでも。
タイムズに対してユニリーバ広報は、「美の狭い定義から抜け出したい」といっています。
さすがグローバル企業の広報、つかみがうまい。
(2021年3月11日)