麻薬は、日本では厳禁です。
使うだけでなく持っても売っても厳罰、捕まったら最長10年の懲役刑。
ネットでもリアルでも、学校でも職場でも地域でも、社会のあらゆるところで麻薬なんてとんでもない、絶対ダメ。それが当たり前だとぼくらは思ってきました。

でもオランダやポルトガルに行くと、この常識は通じません。
大麻どころか、覚醒剤や麻薬などほとんどの薬物は事実上の野放し状態。使いたい人は自由に使えばいい。その結果は本人が引き受ける。そういう社会です。
だからといって、麻薬中毒で社会が滅びるなんてことはない。

いま、アメリカがバイデン政権になって、この方向に進もうとしています。
禁止し、取り締まり、処罰する、から、認め、助け、治療する、への転換です。
その核心にある「ハームリダクション」という考え方を、すでにこのブログでも取りあげました(6月29日、8月15日)。こんどはワシントン・ポストが、こうした方向への転換でバイデン政権を支持する社説を出しています(U.S. overdose deaths are soaring. Biden’s new plan could help ease the crisis. November 9, 2021, The Washington Post)。

ハームリダクションは、麻薬依存症の人に対して、「依存をやめさせる」のではなく、「まず生きのびよう」と働きかけます。麻薬の過剰摂取や、汚染注射器による死亡をなくし(そのために税金で清潔な注射器を配り)、彼らを支援する過程で信頼関係をつくろうとします。そこから、本来の麻薬対策を考える。
麻薬だけでなく、あらゆる依存症にかかわるときの王道でしょう。
こうしたハームリダクションと、それにともなう施策を進めるため、ハビエル・べセラ米厚生長官は議会に112億ドルの予算を求めています。もちろんアメリカでも保守守旧派は多いから、「無料の注射器を配るなんてとんでもない」と抵抗は根づよい。でも現実を見ると、厳罰路線は機能しないと多くの人が認めるようになったのではないでしょうか。
「ダメ、絶対」は、ダメなのです。

(Credit: American Life League, CC BY-NC 2.0)
日本はアメリカと社会の成り立ちがちがうから、すぐおなじようにはならない。麻薬対策は個人の自由をどこまで認めるか、社会は個人をどこまで縛ることができるか、社会制度の基本の基本にかかわる問題です。
ぼくのなかでは、日本が死刑制度を廃止できないのと、麻薬に対し「絶対ダメ」といいつづけているのは、おなじ問題の別の現れだという感覚があります。
(2021年11月17日)