思いもよらない発想です。
「多年草の小麦」。おなじ茎から、何年もくり返して実がみのる、そういう小麦です。
ぼくらが知っている一年草の小麦は、人工の穀物。それにくらべて多年草の小麦は雑草とおなじように自然の一部、肥料が少なくてすみ、地球環境に負荷をかけない。多年生の小麦こそが温暖化を回避し、ほんとうの意味での有機農業になる。
ラジカルです。
多年生の小麦を現実につくり、収穫している人たちがいると知って興奮しました。10歳若ければ、こういう作物をつくりたかったと思ったものです(A recipe for fighting climate change and feeding the world. Oct. 12, 2021, The Washington Post)。

(Kernza サイトから)
問題の小麦は「カーンザ」という名前で、10年ほど前からアメリカの非営利団体ランド・インスティテュート(LI)がつくっています。
その特徴は、まず多年草であること。おなじ茎から何年も収穫をくり返すことができる。
多年草なので、地中深くに根を張る。一年草の小麦の根は数十センチだけれど、カーンザは3メートル以上になり、強い耐性を持つとともに、土地を耕し、ゆたかな自然環境をつくります。
いまの小麦は単一種の大規模生産で土地の力を奪い、大量の化学肥料、農薬を必要とするけれど、カーンザは持続可能で、温暖化の逆を行く穀物になるとLIはいっています。

(Land Institute フェイスブックから)
雑草とおなじように育つから穀粒のサイズは小さく、収量は少ない。値段も高い。
でも環境に敏感な人たちの熱意で、小麦粉、シリアル、ビールなどとして売られるようになりました。
驚いたのは、アウトドアで有名なパタゴニアの関連企業「パタゴニア・プロビジョンズ」がカーンザのビールを売り出していることでした。355ミリリットル缶が400円以上だから、一般的なビールの2倍。でもパタゴニアのファンなら買うでしょうね。

(パタゴニア・プロビジョンズ)
カーンザは理想的な穀物に近いけれど、厳しい言い方をすれば、いまはまだ金持ちの趣味でしかない。
ほとんどの人は、カーンザではなく安い小麦粉、安いパンを買うしかないので。
ぼくらはすでに、大規模生産の安い食品に依存しすぎている。そこから抜け出すことはなかなかできません。もしも出口があるとすれば、それは地産地消でしょうか。少なくとも食にかんするかぎり、グローバル化の反対の方向ですね。
カーンザは、近所の畑でつくればそれなりの成果がえられるかもしれない。アメリカの先駆的な実践からは、そんな希望も感じられます。
(2021年10月15日)