今週はじめ、ある女性ジャーナリストと電話で話していたら彼女がいいました。
わたしもわきまえない女ですから。
あの森発言の翌日のことです。ハッシュタグが立っているとは知らず、そうだよね、おかしいと思ったら声をあげなきゃ、というようなことをいった記憶があります。ツイッターをやらないぼくの反応は、ずれていて一瞬遅かったわけだ。歳のせいでもあるけど。
「#わきまえない女」、どんどん膨らんで勢いを増してほしい。
世の中がどれほど「えらそうなオッサン」に抑圧され、うんざりすることが多いかは、ぼくもそれなりに認識していたつもりです。でもそれを、そうか、そうだったんだー、と明快にわからせてくれたのは社会学者・小熊英二さんの『日本社会のしくみ』(講談社現代新書、2019年)でした。

この本は、なぜ日本社会はえらそうなオッサンがはびこるのか、そのしくみが明快に解き明かされています。
そこにあるのは学歴。「何を学んだか」ではなく「どの学校を出たか」という形の。
勤続年数が重視される。えらそうなオッサンたちは転職しない。一生おなじカイシャに閉じこもり、世間を知らない。
だから女性と外国人は不利になる・・・
要約すると、そんなことはもうわかりきっているといわれそうです。でも小熊さんのすごさは、わかりきっているようでも、じつはぼくらはわかっていなかったと、この本をとおしてわからせてくれることです。いいかえれば、彼のいうことには説得力がある。

なおかつ感銘を受けるのは、この社会のしくみを解いているだけではないこと。小熊さんは戦前戦後をつうじて変わらない日本社会のしくみ、抑圧の構造をどうすればいいか、考える手がかりをいくつかの選択肢として提示しています。
考えるのは、わたしではなく読者であるあなたなのだと。
説得され、納得して、ぼくは少なくとも本を読んだあとしばらく考えました。
えらそうなオッサンたちは、ぼくらに「考えるな」といっています。
えらそうなオッサンにだけは、ならない。
それがぼくのわきまえです。
(2021年2月11日)