アクア葬

 南アフリカのデズモンド・ツツ大主教の葬儀が、1月1日、行われました。
 このブログでも大主教の逝去と、彼に象徴されるアフリカの世界観「ウブンツ」について書きました(12月28日)。客人を歓待する、誰にでも自分の持てるものを惜しみなく与えるというウブンツの精神は、いまなお南部アフリカの社会をかたどっています。ぼくらの社会が真に必要とする世界観でしょう。

デズモンド・ツツ(元)大主教
(Credit: John Mathew Smith & www.celebrity-photos.com, CC BY-SA 2.0.)

 本人は生前、自分の葬儀は華美なものであってはならないといい、棺は「市販のいちばん安いものを使うこと」と指定していました。このため、ケープタウンの大聖堂に安置された棺は塗装もしていない粗末な松材の箱です。しかもその上に置かれたのは、これまた本人の遺言で小さな白いカーネーションの花束ひとつでした。大聖堂にはそれ以外の花をいっさい飾るなという指定だったのです。

葬儀の行われた大聖堂
(Credit: mattk, CC BY-SA 2.0.)

 きわめつけは遺体の扱いです。
 大主教は、自分の遺体を火葬ではなく、「アクア葬」に付すよう求めていました(Desmond Tutu: Body of South African hero to be aquamated. 31 December 2021, BBC)。

 アクア葬? はじめて聞くことばなので調べてみたら、グーグルには「液体火葬」とか「加水分解葬」などの説明があります。アルカリ性の強い薬品を使って、遺体をいわば溶かして処理します(アクア葬というのは、英語のアクアメーション aquamation をぼくが勝手に日本語にした訳語です)。

 BBCによれば、アクア葬は火葬にくらべ二酸化炭素の排出が大幅に少ない、きわめて環境にやさしい葬儀法です。薬品を使った加熱処理で骨だけが残るので、これを洗浄し、機械で粉砕して遺灰にするようです。
 アクア葬のエネルギー消費は火葬にくらべて9割少なく、アメリカではすでに20の州でアクア葬が合法化されているとワシントン・ポストは伝えています(3日)。

(Credit: wesselspj, CC BY-SA 2.0.)

 ツツ大主教はかねてから地球温暖化に強い懸念を抱き、気候変動への対策は「われわれのなすべき最大の課題だ」といっていました。その意志に沿った「グリーンな葬儀」でした。

 日本ではまだアクア葬は認められていませんし、希望者も少ないでしょう。でもこの時代に多量のエネルギーを使う火葬はそろそろ見直し、ほかの手段も検討すべきではないでしょうか。
 ぼく自身は以前(7月21日)にも書いたように、遺体が土に帰って植物の栄養分になるような「生分解葬」がいいなと思っていますが。
(2021年1月4日)