ヨーロッパで「修理権」の動きが広がっていると書きました(7月3日)。
おなじ動きがアメリカでもはじまっています。
問われているのはハイテク企業、電機メーカーの企業倫理でしょう(July 14 & 21, 2021, The New York Times)。

バイデン大統領は7月9日、アメリカの消費者の修理権を守るべきだと大統領令を出しました。具体的には、FTC、連邦取引委員会に対して、アメリカ企業が消費者の修理権を制限しないよう、必要な措置をとることを求めたのです。
大統領令に応えてFTCは21日、「企業は消費者の修理権を制限してはならない」という内容の決議を、全会一致で行いました。
企業は、もっと修理しやすい製品をつくりなさい、それが消費者の利益になり、廃棄物を減らすということです。
いまのスマホや家電製品の多くは、消費者が「どんどん使い捨てる」ようにつくられています。消費者は、自分の持っている製品がちょっとくらいこわれても、修理するのはめんどうだしむずかしいし金がかかるので、つい最新モデルの製品に買い替えてしまう。

そのしくみを支えているのは、修理部品がない、修理する業者がいない、修理する方法がわからない、といった消費者にとって不利な条件です。さらには、修理ができるのはメーカーの「公認業者」だけ、そこで高額な修理代が請求されるといったしくみです。
FTCはこうした、消費者に不利なしくみを制限する方向に動くでしょう。
修理権について、アメリカには前例があります。自動車です。
かつて自動車は、メーカーの公認業者しか修理できないしくみがありました。それを2012年、マサチューセッツ州が法律で規制したのです。誰でも修理できるようにしろ、と。

この影響で、アメリカでは原則として、どんな自動車もどこでも修理ができるようになりました。いまの自動車はコンピュータの塊のようなものだけれど、そうした複雑な修理もかなりの程度まで一般的な業者が請け負えるということです。
消費者団体USPIRGは、スマホが修理できるようになったら、平均的なアメリカの家庭は年に330ドル、3万6千円の節約になるといっています。
ぼくらはこれまで、スマホの液晶画面が割れただけで「全とっかえ」するのはおかしいと思ったし、PCのキーボードが壊れただけで新モデルに買い換えるのはムダだと思った。でも修理権が進み、FTCや公正取引委員会が介入すれば、もう少し納得できる消費生活が送れるんじゃないかと思います。
(2021年7月23日)