カメラマンの脱出

 ウクライナ軍の“決死隊”が、報道カメラマンを救出しました。
 ウクライナでもっとも悲惨な戦闘がつづく南東部の港町、マリウポリで起きたひとつの脱出劇をAP通信が配信し、ワシントン・ポストが掲載しています(Names on a list: Fleeing Mariupol, one checkpoint at a time. AP. March 20, 2022, The Washington Post)。

 ウクライナ戦争で、外国メディアはワシントン・ポスト、ニューヨーク・タイムズ、BBCがそれぞれ10人近くの記者、カメラマンを現場に配置しています。これまでにアメリカ系のメディアの3人が死亡しました。
 なかでももっとも困難とされるマウリポリで、最後まで残っていたのがAP通信の2人のカメラマンです。ミツラフ・チェルノフさんとエブゲニー・マロレツカさん。このふたりが20日、マウリポリから脱出したいきさつを記事にしていました。

ゼレンスキー大統領 Facebook (3月14日)の写真

 それによると、チェルノフさんたち「APの2人」はマウリポリで取材中、いきなりウクライナ軍に「確保」されたといいます。それはウクライナが2人をロシア軍から守るためでした。2人はロシア軍にねらわれていたのです。なぜなら開戦以来、マウリポリの惨状を世界に発信しつづけていたから。たとえば産科病院が爆撃され、担架で運ばれた妊婦がお腹の子とともに死亡した事件など、ロシア軍の無差別な破壊が最悪の人道危機を招いていることを映像で伝えつづけました。
 その情報源を、ロシアは消そうとしたのでしょう。
 そこまでロシア側にとっては迷惑な存在だった。だから駐英ロシア大使が「妊婦の映像は役者が演技したウソ」などと、むりな否定をしています。それほどに、映像には力があった。

マリウポリのAPの写真
(ゼレンスキー大統領 Facebook 3月14日から)

 ウクライナ軍の決死の支援で、3月20日、2人は砲弾の飛び交う市内を抜け出し、市民の車に同乗してマリウポリを脱出しました。生きて出られたのは奇跡だったかもしれません。

 チェルノフさんたちをロシア軍がねらったのは、ウクライナ軍の情報で確かなことはわかりません。でもウクライナ軍は、APの2人がロシアに捕まり「あの写真はウソだった」などといったらおしまいだ、そうならないよう脱出させる、といったそうです。
 ロシアが2人をねらったのは、嘘ではない気がします。ロシアがいちばん恐れるのは真実だから。ゼレンスキー大統領のフェイスブックにも、2人の映像がたくさんありました。

 APの2人がいなくなり、マリウポリで何が起きているかを、ぼくらはこれまでのように知ることができなくなりました。
 ロシアはこれで安心したことでしょう。
(2022年3月23日)