決定的だったのは、小さな女の子がカモメに襲われケガをしたことでした。
もうガマンならん、われらがリゾートビーチから悪徳カモメを一掃する! と、ニュージャージー州オーシャンシティのギリアン市長が決意したのは2019年だったそうです(The Ancient Art of Falconry at the Jersey Shore. June 23, 2022, The New York Times)。

このあたり一帯にいるカモメ2万羽の害は目に余りました。
集団で鳴きわめく。あたりかまわず糞をする。ポプコーンやポテチ、フライドポテトなど、海水浴客の食べものをバサバサ飛んで来てはかっぱらう。女の子のピザを強奪する場面は、市長自らが目撃したといいます。
「高齢者や子どもが数えきれないほど襲われてる。わたし自身が見てるんだ」
襲われた女の子はかわいそうに、ほほから血を流していたとか。ケガじゃなくケチャップだった? そんなのどうでもいい、とにかくピザが盗られたんだと市長はいいます。

以来、全米有数のビーチを守るためのカモメ追放作戦がはじまりました。
止まり木を針の山にしてみたり、音で追い払ったり、妨害のために網を張ってみたり。でもカモメはそんなことではひるまない。
困った末に見つけたのが“鷹匠”のエリック・スワンソンさんでした。
トラックにタカならぬ2羽のハヤブサを乗せてやってきたスワンソンさんが、海辺のボードウォークで腕にハヤブサを止まらせた瞬間、状況は一変したそうです。
「わわわ、何だあれ!」
カモメはパニックを起こして飛び去りました。恐ろしい天敵の出現と思ったのでしょう。

(Credit: Blake Matheson, Openverse)
ボードウォークから飛び立ったハヤブサは、悠然と海の上で弧を描き、やがてまたスワンソンさんの腕に舞い降りる。その間カモメは全員、遠くに避難です。ときどき調子者のカモメが度胸試しに近くまで飛んでくるけれど、ハヤブサがちょっと急降下するだけであわてて逃げる、なんてことがくり返されます。
ハヤブサはもともとネズミやウサギが餌だから、カモメに興味はない。海水浴客の前でカモメが襲われる血なまぐさいシーンは起きないそうです。
この成功でスワンソンさんはさらにハヤブサやタカの数を増やし、これら猛禽類はオーシャンシティの人気者になりました。

じつはアメリカではカモメが迷惑動物とされ、去年は1万7千羽が殺処分されています。それにくらべれば、オーシャンシティの対策は進歩的です。カモメもまた、たんに追い払われるだけだから幸運だというべきでしょう。
カモメはカモメで、また別の言い分があるかもしれないけれど。
(2022年6月30日)