カンガルーの靴

 カンガルーは靴じゃない。
 こういう見出しがついてるもんだから、思わずワシントン・ポストの記事を読んでしまいました(‘Kangaroos are not shoes’ campaign lands awkwardly in Australia’s outback. April 15, 2021, The Washington Post)。

 ナイキやアディダスの靴がカンガルーの革を使っている、そういうことはやめろとアメリカの動物保護団体が声を上げている。そのスローガンが「カンガルーは靴じゃない」。
 ま、どうでもいいんじゃないか、そんなこと。と思ったのですが。

 この記事によれば、アメリカ議会にいま「カンガルー貿易」の禁止法案が提出されています。オーストラリアでは年間200万頭のカンガルーが殺され、カンガルーの革が60億円分、アメリカに輸入されている。そういうひどいことを禁止しろと動物保護団体が立法化に動いている。
 ところがこの記事、ワシントン・ポストのオーストラリア特派員、レイチェル・パネット記者が書いています。記事はちゃんと、カンガルーを「殺す」側の現地の人びと、アボリジニまで取材していて、そこが興味深い。

 要するに、カンガルーが増えすぎている。
 増えすぎているので、オーストラリアは法律をつくり、許可を受けた人にカンガルーの「間引き」を認めています。
 パネット記者の記事も「殺す」という表現を使っていない。「間引き」です。
 先住民アボリジニは、むかしからカンガルーを食料にしてきた。カンガルーをどうやって捕まえるか、皮をはぎ、肉を食べるかは、かつてアボリジニだったら少女でも身につけた生活技術です。それがいまは苦痛を与えないよう、銃で「人道的に」間引くようになった。
 もちろんいまはアボリジニ以外にも、免許制でカンガルーの捕獲、飼育が認められています。

 パネット記者によれば、オーストラリアの野生動物局も専門家も環境団体も、動物愛護協会ですらカンガルーはいまのような商業的「収穫」を進めても問題はないと考えています。増えすぎたカンガルーを間引くのは、カンガルー、人間、自然環境の維持にも必要なことだと。

 その背景には、農業用水が普及し、緑地が増えつづけているという事情もあるようです。
 緑地が増えるからカンガルーも増える。増えすぎて、ちょっとした干ばつでも大量に餓死する。それを間引きし調整するほうがむしろ人道的だという考え方。
 太古の自然とはちがうサイクルが起きているのでしょう。

 それに、カンガルーの肉は脂肪が少なく健康食だそうです。
(2021年4月16日)