キマニ演説

 ケニアの外交官の国連演説がバズっています。
 ロシアのふるまいは帝国主義だと、旧植民地から非難の声があがったという文脈で。
 ウクライナ問題を討議する国連安全保障理事会で21日、ケニアのマーティン・キマニ大使が行った演説です。ロンドンのキンズスカレッジで博士号を取得したエリート外交官のことばだけに、含蓄がありました。
 日本のメディアも伝えたけれど、この演説をたんなる「ロシア批判」とみるのは短絡だとワシントン・ポストの論評を読んで思いました(Opinion: Kenya calls out Russia’s aggression — and denounces imperialism everywhere. By Karen Attiah. Feb. 23, 2022, The Washington Post)。

国連安保理(資料映像)
(Credit: UN Women Gallery, Openverse)

 ケニアのキマニ大使はウクライナ問題について、大国が国の主権を定めた国連憲章をゆるがしていると、歴史的な視点から批判しています。

「ケニアをはじめアフリカのほとんどの国は帝国主義が終わって誕生した。国境はわれわれが決めたものではなく、パリやロンドン、リスボンが伝統社会を無視して決めたものだ。今日、すべてのアフリカの国はその国境越しに歴史的、文化的、言語的なつながりを保っている。もし民族や人種、宗教によって国をつくっていたら、長い流血の時代がつづいただろう。われわれが過去にしがみつく危険を犯すより外部から押し付けられた国境を受け入れたのは、それ以上の大きなものを求めたからだ」

マーティン・キマニ大使(ケニア)
(本人のツイッターから)

 それ以上の大きなもの。多様な民族や人種、宗教、文化が共存する社会。あるいは、それらをも超えたもの。ところがロシアはウクライナがロシアと同一化することを求め、戦争を起こしている。ウクライナだけでなく、ケニアやアフリカ諸国の存在をもおびやかしているのです。
「われわれは滅亡した帝国の残り火から、支配と抑圧にもどることのない回復をめざさなければならない」

 キマニ大使の清冽な声は、ネット上に広く拡散して話題になりました。

ウクライナの首都キエフ

 ポスト紙の論評はこの声とともに、帝国主義と黒人差別はつながっているというロシアとウクライナに詳しいジャーナリスト、テレル・ジャーメイン・スターさんの声を引用しています。
「ウクライナ人を殺戮することも、中央アジアの人びとを“文明化”することも、黒人を軽視することも、すべてロシア人、スラブ人中心の思考から来ている。いまやロシアはかつてのソ連とおなじだ」

 キマニ大使の演説、ポスト紙の論評、ジャーナリストのスターさんのことば、すべて黒人の視点が貫かれてます。
(2022年2月25日)