コロナは漏洩なのか

 今回のパンデミックはいったい何だったか、広範な議論がはじまっています。
 ぼく自身は、コロナは中国の武漢研究所が起こしたものかどうかという、「コロナの起源」をめぐる論争に注目してきました。

 アメリカのメディア、とくにワシントン・ポストがこの問題をくり返し取りあげ、中国は事実を明らかにせよと主張しています。こうした主張の裏には、中国はウィルスを兵器として開発しているのではないかという疑念までふくまれています。それに応えてバイデン大統領も先月末、情報機関に調査を命じました。
 もちろん中国は強烈に反論しています。

 この問題で、きわめて興味深い寄稿がニューヨーク・タイムズに載りました。気鋭の社会学者、ゼイネップ・トフェクチさんの論文です(Where Did the Coronavirus Come From? What We Already Know Is Troubling. By Zeynep Tufekci, June 25, 2021, The New York Times)。
 これを読んで、ぼくは見方を変えました。
 中国は何かを隠している。意図的だったかどうかはともかく、コロナは武漢ウィルス研究所からの漏洩を疑わざるをえないと。

 トフェクチさんの長い論文は、こんなふうにはじまっています。
・・・1977年から8年にかけて、インフルエンザH1N1型が流行した。このウィルスは1950年に流行したものと本質的に同一だった。ウィルスはつねに変異しているのに、これは奇妙な現象である。2004年、背景が明らかになった。中国の科学者のひとりが、著名なウィルス学者ピーター・パレーズに「あれは中国軍がH1N1のワクチンを試す目的で、軍の志願者数千人に感染させたものだった」と告げたのである・・・

 先端科学に詳しいトフェクチさんの論文は、世界でウィルス研究がどのように進んでいるか、研究所での事故や漏洩による感染がどんなに多いかを指摘し、さらに中国のコロナ・ウィルス研究、とくに遺伝子操作の危険性について指摘しています。その詳細は、興味のある方に別途読んでいただきましょう。

 ゼイネップ・トフェクチさんの論文は、いまのところぼくにとっては決定的です。もちろん論文自体が事実にもとづく的確な論考を重ねていて、政治的な思惑に流されていないから。ぼくはかねてから、コロナをめぐる彼女の論考は説得力があると思って読んできました。

 中国政府が秘密主義と情報統制をつづけるかぎり、真実は闇に埋もれたままでしょうけれど。
(2021年6月26日)