アメリカはいつ、コロナに対する勝利宣言を出せるのか。
こういう見出しで、コロナ禍の今後をニューヨーク・タイムズのボカート=リンデル編集委員が論じています。というか、識者の意見をいくつかまとめている。結局のところ、勝利はそれぞれの人の考え方次第です(When Can the U.S. Declare Victory Over Covid? Nov. 16, 2021, By Spencer Bokat-Lindell, The New York Times)。

ボカート=リンデル編集委員があげたひとつの数字が興味深い。
アメリカでは2020年11月15日、1148人がコロナで死亡している。それからちょうど1年後の2021年11月15日の死亡者は、1129人。ほとんど変わらない。にもかかわらず世の中は変わった。レストランも劇場も再開され「新しい日常」が訪れている。それは重症化する人や死亡する人が減りつづけているから。少なくともいまは。

アトランティック誌のサラ・ザン記者はいいます。
ワクチンで、私たちは以前よりずっと安全になった。いまやコロナは感染者ではなく、重症化する人、入院する人の数を指標に考えるべきだ。高齢者のワクチン接種、ブースター(追加接種)を進めよう。
タイムズのデビッド・レオンハート記者は別の数字を出しています。
シアトル市では、ワクチンを受けても重症化し入院する人が、100万人に1人いる。一方、インフルエンザで重症化し入院する人は、100万人あたり2人以上だ。
数字を見るかぎり、コロナはインフルエンザの半分の脅威でしかない。

カリフォルニア大学のロバート・ウオッチャー博士はいいます。
「ブースター(追加接種)を受けたら、私はこれまで控えていたことをしてみたい。多少の危険を冒しても。でなければ死ぬまで何もしないだろうから」
そういうウオッチャー博士は64歳、飛行機に乗るときはこれからもずっとマスクをするといいます。しかしワクチンを接種した仲間とポーカーをするときは、もうマスクはしない。
いまある危険をどう見るか。それによって「勝利」は変わる。
コロナがゼロになることはなく、危険がゼロになることもない。
勝利宣言は、だから国や社会が出すものではなく一人ひとりに任されている。タイムズにそう書いてあるわけではないけれど、ぼくは読んでそう思いました。
(2021年11月18日)