コーヒーと熱帯雨林

 コーヒーを飲むと、熱帯雨林の破壊が進む。
 世界的なコーヒー需要のせいで、熱帯雨林の違法な伐採が進んでいるからです。
 そういう話を聞いても、ぼくにはどうすることもできないと無力感を覚えます。
 でも、意外なところに希望はある。
 そう思わせてくれる、すぐれたレポートに出会いました(How Your Cup of Coffee Is Clearing the Jungle. By Wyatt Williams, Aug. 11, 2021, The New York Times Magazine)

 舞台はインドネシアです。
 スマトラ島の南部にあるブキット・バリサン・セラタン国立公園は、何十年にもわたって熱帯雨林の伐採が進み、無数のコーヒー農園が広がっています。国立公園での伐採や農業は違法であるにもかかわらず、密林の奥で道路もないところだから、取り締まりはおろか実情の把握もされていない。

ブキット・バリサン地方(インドネシア iStock)

 ここに、WCS、野生生物保護協会という環境保護団体のベテラン活動家、マット・レゲットさんが目を向けました。
 そしてわかったことは、国立公園には何百もの違法コーヒー農場が散らばっていて、そこでできたコーヒーは仲買人から企業へと流れ、最終的にネスレをはじめとする世界的なコーヒー企業の製品になっていることでした。
 そこには複雑きわまりない流通経路があり、数え切れない仲買機構があり、その過程でコーヒーは「無名化」されています。どこの誰がつくったか、とても追いきることはできない。企業の責任を問うだけでは限界がある。ではどうするか。

 イギリス生まれのレゲットさんは、パプアニューギニアや中南米での暮らしが長く、途上国の事情に通じています。違法な伐採が行われるのも、みんな生きるために必死だからということ、そして禁止や取り締まりでは効果がないことを熟知しています。
 そこでとったのは、思い切った戦略の転換でした。
 違法なコーヒー農家を「助ける」ことだったのです。
 彼らがより多く、より品質のいいコーヒーをつくれるように支援すること。支援を通して、彼らとの信頼関係をつくること。そのうえで、年月をかけながら、最終的に熱帯雨林が保護されるしくみを、ともにつくりあげようというのです。

 2019年にはじまったこの劇的な路線転換が、うまくいくかどうかまだ結論は出ていません。けれど「当事者」の視点からはじめる転換は、かならず何らかの成果に結びつくだろうとぼくは期待しています。
(2021年8月17日)