スウェーデンの一年

 コロナ禍の各国には目まぐるしい栄枯盛衰がありました。
 半年前に欧州最悪と見られたイギリスは、その後ワクチンで盛りかえし、ほぼ集団免疫を達成して「脱コロナ」の最先端を走っています。
 かつて優等生といわれたドイツはことしになって感染が広がり、ワクチンも追いつかずきびしいロックダウンがつづいています。
 コロナを抑えこんだはずのインドは、爆発的な感染で医療が崩壊しました。
 オーストラリアとニュージーランドは、日本よりはるかに厳しいロックダウンで無菌状態を達成し、ほぼ自由な日々をエンジョイしています。

 そのなかで、ずっと気になっていたのがスウェーデンでした。
 ヨーロッパでただ一国、ロックダウンをしていない。感染が広がっても規制をせず、商店や学校は開いたまま、マスクも義務化されなかった。
 そのスウェーデンはどうなったかを伝えるレポートが、ニューヨーカー誌に載りました(Sweden’s Pandemic Experiment. By Mallory Pickett, April 6, 2021, The New Yorker)。

 高級誌に載るだけあって、深くすぐれたレポートです。
 それを読んで思ったのは、スウェーデンは自由放任のようでいてそんなかんたんな国ではない、市民の多くが自分自身で考えることができる、だからコロナにも対処できたんじゃないかという、羨望にも似た思いでした。

ストックホルム、スウェーデン iStock

 コロナ禍でスウェーデンが行ったのは、基本的には(1)老人ホームを守る、(2)大規模な集会をしない、という二つだけだったといいます。
 このため、たしかに感染は広がりました。隣国のフィンランドやノルウェーにくらべれば人口あたりの死亡者は何倍にもなる。でもイタリアやスペイン、ベルギーにくらべればずっと少ない。こんなに規制がなくて、でも相対的に被害が少ないのはなぜか。

 ピケット記者の観察でうなったのは、スウェーデンは「単純でわかりやすい規制」しかしなかった、しかもそれが「変わらなかった」ということでした。
 なおかつすごいのは、市民はそれぞれに自分で自分を守るようになったということです。最初は誰もマスクをしなかったのが、最近は状況に応じてするようになった。外食や小規模な集まりも、自分の判断でしたりしなかったりする。これは強制するより、全体としてはずっと効果がある対応になるのでしょう。

 人は法律や罰則でしばり、命令やかけ声で動かすものではない。この感覚、“何とか宣言”しか考えつかない人びとには理解も想像もできないと思います。
(2021年4月30日)