デスクでランチ

 コロナは人間を差別しない。
 世界中どこでも、誰に対してでもコロナは平等です。そういうユニバーサルな困難があると、そこからそれぞれの国や文化の意外なちがいが見えてきます。
 フランスでは、オフィスでランチが食べられるようになりました。

 それがどうした、と、日本人だったらいうでしょう。
 でもオフィスのデスクでランチを食べるのは、コロナ以前のフランスでは法律違反でした。フランス労働法4428条の第16項がそう規定していたのです。

 もしも、仕事しながらパソコンの前で出前のピザをかじってるような従業員がいたら、その会社は訴えられてしまう。そういう労働法を、フランスも変えざるをえなくなったとニューヨーク・タイムズのパリ特派員が伝えています(To fight the virus, France relaxes its ban on an American habit: lunch at your desk. By Roger Cohen, Feb. 7, 2021, The New York Times)

 もちろん、コロナ対策です。イギリスほどひどくはないけれど、フランスの感染も一向におさまらない。外出を抑え、少しでも人の接触を減らすためには職場のデスクでランチをとることも容認しなければならなくなった。

 かつてのフランスだったら、デスクでハンバーガーをほおばるなんて無粋な「アメリカの習慣」を認めるはずはなかった。食事と仕事はちがう。ちゃんと食卓について仲間とワインを飲みながらとる、それが食事。あらゆることが話題となり、すべてが話しつくされる。食卓こそ人生。それがコロナで吹き飛んでしまった。

 とはいえ、関連したいくつかの記事を見ていると、これはたんなるコロナ対策でもないか、という気がします。
 フランスのマクロン大統領は就任以来、フランスの非効率な労働形態や、解雇がむずかしい労使関係などさまざまな規制を変えようとしてきたといいます。労働者の権利を抑え、生産性をあげたいということでしょう。かんたんにできる話ではない。そこで、ま、ついでにとコロナの力を借りたんでしょうか。

 グローバル化の波はフランスにも等しく押しよせています。
 でもぼくらのなかには、21世紀になって20年が過ぎたいま、グローバル化はいいことばかりではないという意識が芽ばえている。
 職場でピザをかじる。それ、やっぱり禁止した方がいいのかも。
 コロナが明けたら。
(2021年2月22日)