人類の起源をめぐる新しい発見がありました。
フランスの遺跡から、5万4千年前の子どもの歯が見つかったのです。
これまで人類がヨーロッパにたどり着いたのは4万年前とされていましたが、それよりずっと前に人類はアフリカからヨーロッパにたどり着いたことになります。

もっと興味深いのは、その子どもの歯の上にも下にもネアンデルタール人の遺跡があったこと。これは、ヨーロッパでネアンデルタール人と人類が長期間、おそらく1万年以上、共存したことを示しています。科学誌「サイエンス・アドバンシズ」に掲載された論文をBBCが伝えました(Neanderthal extinction not caused by brutal wipe out. Feb. 9, 2022, BBC)。

フランス南部ローヌ渓谷のこの遺跡で、人間の子どもの歯が見つかった地層からは矢じりのような石器も発見されました。
研究者は、5万4千年前、このあたりにいた人類は弓矢でネアンデルタール人を征服したかもしれないし、その後は逆にネアンデルタール人に征服されたかもしれない、などと想像しています。

ネアンデルタール人が4万年前になぜ滅びたのかは謎ですが、遺伝学と人類学の進歩で、いまではぼくら現生人類のなかにネアンデルタール人の遺伝子が入りこんでいることがわかっています。4万年から5万年前のがどこかで、交雑が起きたのでしょう。ということは、ネアンデルタールと人類の関係はつねに殺伐としたものではなかった。おたがい平和的に共存しようと考え、実際にそうしていた人たちがいて交雑は起こり、ネアンデルタールの遺伝子が人類のなかに残ったでのではないでしょうか。

(Credit: Jim Linwood, Openverse)
この50年、人類学の研究は「人間はどこから来たのか」についてのぼくらの見方を何度も変えてきました。その最たるものは、人間はけっして一直線に進化してきたのではないということでしょう。途中で消えていったネアンデルタールのような「人類の仲間」がたくさんいた。ぼくらはたったひとつの、奇跡のような生き残りなのです。
そのようにして「人類」という概念を考えていると、その一方でよく聞く「人種」という概念はあいまいになるばかりです。カリフォルニア大学の人類学者、イ・サンヒさんはいいます。
「古人類学者は、人種とは生物学的な概念ではなく、歴史的、文化的、社会的な概念である、というコンセンサスに至っています」
白人、黒人、ユダヤ人を「ちがう人種」と考えるのは生物学的には意味がない、科学的な議論ではないということですね。そういっても現実の社会では激しい対立がなくならないけれど。
(2022年2月16日)