ハームリダクション

「ダメ、ゼッタイ」はダメ。
 4月5日のブログでこう書きました。
 薬物使用はゼッタイにダメ、と呼びかける厚生労働省の呼びかけは無効。それどころか薬物使用を引き起こしかねないという意味です。
 ゼッタイ禁止、使ったら厳罰。そうじゃなくて、もっと当事者の視点を取り入れようと。

厚労省ポスター(部分)

 おなじようなことが、アメリカでも論争になっています。
 キーワードは「ハームリダクション」、麻薬などの薬物乱用者に対し、絶対ダメというのではない、もうひとつの方向です(Helping Drug Users Survive, Not Abstain: ‘Harm Reduction’ Gains Federal Support. June 27, 2021, The New York Times)。

麻薬(コカイン、Pixabay)

 ハームリダクションは、麻薬乱用者に「麻薬をやめろ」という前に「まず生きよう」と呼びかけます。
 麻薬の過剰使用による死亡や感染症などから身を守ることを優先し、そのために麻薬乱用者に清潔な注射器やアルコール消毒器具、さらには過剰使用で命が危険になったときに使うナロキソンという救急薬まで手渡します。

麻薬過剰摂取の対策キット
(麻薬拮抗剤ナロキソンなど、iStock)

 それじゃ麻薬使用を助長するだけだと、当然ながら多数派、保守派は反発する。
 でも、これまでの経過を見れば「ゼッタイダメ路線」がうまくいったとはとてもいえない。麻薬乱用による死亡者は、去年全米で9万人に上ると推定されています。自殺者の3倍。どんなに厳しく禁止しても、使う人は使う。
 現場から見えるのは、当事者の存在を認めないかぎり麻薬問題の出口は見えないということです。まず「やめろ」ということは、「おまえはダメだ」という否定のメッセージを送ることになる。「まず生きよう」は、「きみも生きていていいんだ」という肯定のメッセージを送ることになる。正反対への動きがふくまれているのです。

 肯定のメッセージが届くかどうか、そのメッセージに返事があるかどうか。ハームリダクションを進める人びとは、そこで待つのです。

 ハームリダクションのプログラムに対して、バイデン大統領はこのほどアメリカの大統領としてはじめて、条件つきながら3千万ドル、30億円規模の支出を決めました。全米の医療福祉予算から見れば雀の涙ですが、連邦政府がこのプログラムを認めたことには大きな意義があると関係者は注目しています。
 バイデン政権には、ゼッタイダメはダメとわかっている人がいるようです。
(2021年6月29日)