ブルートゥースとDV

 スマホとブルートゥース、という組み合わせがあります。
 広い世間とつながっているスマホと、そのスマホの微弱な電波で身の回りの機器とつながるブルートゥース、これを組み合わせたさまざまな応用が進んでいます。
 コロナ対策の接触確認アプリ「ココア COCOA」がその一例です。不評ですけど。

 このスマホとブルートゥースの組み合わせは、便利なだけじゃない。
 DVのツールとしても悪用されうることを、ワシントン・ポスト紙でIT分野専門を担当するファウラー記者が書いています(Apple’s AirTag trackers made it frighteningly easy to ‘stalk’ me in a test. By Geoffrey A. Fowler, May 6, 2021, The Washington Post)。

 ファウラー記者が取りあげたのは、アップルのスマホ、アイフォンの「エアタグ」です。

アップル「エアタグ」(Pixabay)


 500円玉くらいのボタンのようなもので、ブルートゥースでスマホにつながります。これをバッグや自転車などにつけておくと、どこに置き忘れてもスマホで探し出せるという「忘れ物発見装置」です。

 でもこのエアタグを、ストーキングやDVの被害者に付けたらどうなるでしょうか。
 ファウラー記者は実際に自分にエアタグを取り付け、仲間の記者にストーカー役を頼んで実験しました。それをDVの被害者支援を進めている活動家へのインタビューとともに伝えています。

 それによると、こうした装置はだいたいが泥棒のような「外からの脅威」しか想定していない。けれどストーカーもDVも、実際の被害はほとんどが「内側」から来るもので、いつもいっしょに過ごす人との、一見親密な関係のもとで生じています。
 ファウラー記者は,こっそりエアタグを付けられてもいまのしくみではそれに気づくことがむずかしいといった、「被害者の視点」からのいくつかの問題を伝えています。
 かつてスマホのカメラは盗撮防止でシャッター音を出すようになりました。そういう対策が何か必要なんでしょう。

 ストーカーの装備に詳しい専門家(そんな人がいるんですね!)、エレクトロニック・フロンティア財団のエヴァ・ガルペリンさんはいっています。
「どんな製品も最初から完全ではない。けれど一度でもDVの専門家に相談していれば、最初からもっとちがった製品ができたのではないか」

 ここでも大事なのは、当事者の視点です。
 アップルのエアタグは、競合他社の製品にくらべれば利用者のことを考えている、それでも欠けているのはこの「視点」なのだと、ファウラー記者の記事は伝えています。
(2021年5月9日)