ベーシックインカム

 アメリカの多くの都市で、「ベーシックインカム」の支給がはじまっている。
 こんな新聞記事を見てびっくりしました。あの“反福祉国家”のアメリカで、どうしてそんなことができるのかと。よく読むと、限定的、部分的な形の支給で、これをベーシックインカムといえるかどうかわからない。けれど斬新な試みです。

 ワシントン・ポストが伝えていたのはシカゴのケースでした。
 市内の貧困層5千世帯に、1か月500ドル、6万円近くを無条件で1年間支給する。
 総予算3千百万ドル。シカゴ市は連邦政府からコロナ対策として20億ドルが支給されているので、その一部をあてるといいます(Chicago poised to create one of the nation’s largest ‘guaranteed basic income’ programs. Oct. 25, 2021, The Washington Post)。

 アメリカでは2019年、カリフォルニア州のストックトンで貧困世帯への現金給付がはじまりました。
 実験的、小規模な試みで、対象者は125人です。しかし専門家の調査で、給付を受けた人はフルタイムの仕事をはじめたり、精神的に安定するなど、かなりの効果をあげるとわかりました。このため、おなじような現金給付がデンバー、ピッツバーグ、サンフランシスコなど、全米40の都市ではじまっています。
 いずれも、困っている人に5万円から10万円程度を毎月、条件をつけずに支給します。予算がなくなればやめるので、本来のベーシックインカムとはちがう。でも、アメリカでこうした試みがはじまったことは注目に値します。強い反対にもかかわらず。

 貧困世帯に無条件で現金を支給するなんてとんでもない、そんなことしたら誰も仕事をしなくなる、それより自助努力が先だろう、といった反論はどの町、どの国でも起きます。他者への共感も想像力も欠いた狭量な切り捨て論。でも現実の貧困に目を向ければ、困っている人には「自由に使える金」が必要なのだと、都市の首長はわかってきたのです。
 自身、貧困のなかで育ったシカゴのライトフット市長はいいます。
「お金のない暮らしがどんなにつらいか、私は経験から知っている。わずかでもあれば救われるのよ」

 ぼく自身はベーシックインカムを実現したい。でも社会のあり方をひっくり返さなきゃならないから、当分無理だと思っていました。ところが、頭を使い知恵を絞る人たちによって、不十分、不完全な形であってもはじまっている。そのことに勇気づけられます。
 まねでもいいから、日本でもはじめたい。
(2021年10月26日)