スマホって、安全なんじゃなかったっけ。
いやいや、とんでもない。
国家がその気になれば、市民のスマホを監視できるのです。
ワシントン・ポスト紙が、このテーマでかなり力の入った調査報道をはじめました(The Pegasus Project. A global investigation. July 18, 2021, The Washington Post)。

焦点となるのは、イスラエル企業「NSOグループ」が開発したスパイウェア、「ペガサス」です。
もともとはテロリストや国際犯罪組織の情報網に侵入するソフトウェアで、開発にはイスラエル軍が深く関与していたはず。それがいまは、各国政府が市民監視のために使うようになったのではないかとポスト紙は警告します。
この報道によれば、広範な調査によって、スパイウェア・ペガサスが集めたとされる5万を超えるスマホの番号がわかりました。このなかの1000以上の番号の身元がこれまでに判明し、そこにはアラブの何人かの王室メンバー、65人の企業家、85人の人権活動家、189人のジャーナリスト、600人以上の政治家や政府関係者が含まれていたといいます。
つまり、ペガサスというスパイウェアを使って、さまざまな国の独裁者や情報機関が、「敵対勢力」を、そして一般市民をも監視しているのではないかという疑いが強まっている。

疑いだけではありません。このうち37人のスマホは、ペガサスが侵入した痕跡が確認されたといいます。
この調査報道は、人権団体のアムネスティなどが入手したデータを、ポスト紙だけでなくフランスの非営利報道組織や、かねてからペガサスを研究してきた人権団体、トロント大学の専門家らが解析した結果を伝えたものです。
スパイウェアを開発したNSOは、この報道を根拠がないと否定しています。

つまり、スマホはじつは安全ではなかったということでしょう。
不気味なことに、ペガサスがどの国の誰にどこまで侵入していたか、全体像はわからない。もしかしたら杞憂かもしれない。でも、もしかしたらきわめて悪質な国家犯罪が現在進行中なのかもしれない。
まるでミステリーやSFの世界みたいです。でも、報道には現実味があると思いました。
ポスト紙は、もしかしたら地雷原に入りこんだのかもしれない。しかし、だからといってひるむような新聞でもないとぼくは注目しています。
(2021年7月19日)