マスクが必要なわけ

 なるほど、そういうことかと、コロナについてまたひとつわかったことがあります。
 ワクチンをしていても、ウィルスをまき散らすことがある。それはなぜか。
 なぜなら、ワクチンをしてどれだけ身体を守っても、ウィルスは鼻のなかのような、ごくかぎられた部分では増殖できるから、なんだそうです。
 つまり身体は丈夫でも、鼻の穴がウィルス生産工場になっている。だから、ワクチンをしている人もマスクを付けなければならない場合がある(I’m Vaccinated. When Should I Wear a Mask? Sep. 15, 2021, The New York Times)。

 この記事によれば、ワクチンをすることでぼくらの身体は、T細胞と呼ばれる免疫細胞とIgGという抗体をつくってウィルスをやっつける。ところがこのIgG抗体は鼻の穴や口のなかのような、湿った粘膜に覆われた部分ではうまく働かない。

 そういうところで働くのはIgAと呼ばれる抗体です。
 しかも新しい研究によれば、いまのワクチンはこのIgA抗体をうまくつくることができないらしい。だから、コロナ・ウィルスは身体のなかに入るとT細胞やIgG抗体によって殺されてしまうけれど、鼻の穴のなかでは生きのびる余地がある。そして粘膜の上で増殖する。こうして増えたウィルスが、話したり歌ったりすると飛び散るというわけです。
 症状がなくてもウィルスをまき散らすというのは、こんなメカニズムがあったんですね。

 単純化すれば、コロナ・ウィルスは花から花へ飛びかう蝶のように、ヒトの鼻から鼻へと飛びかっている。デルタ変異株の登場で、その活動は一段と活発になった。そしてたまたまワクチンを打っていない人の鼻に感染すると、その人の身体にまで入りこみ重症の感染症を引きおこすことがあるということです。

 だからたくさんの人が集まっている場所で、ワクチンを打っていない人がいるかもしれないとき、また基礎疾患のある人がいるときなど、ぼくらは自分の鼻にあるかもしれないウィルスをばらまかないために、マスクをした方がいい。感染を防ぐためではなく、広げないために。

 こうしたことがわかってきたので、専門家は鼻の穴に吹きつけるスプレー・タイプのワクチンを考えているようです。でもまだ実現の見通しはない。ぼくらは当分のあいだ、たくさんの人が密に集まるところでは念のためにマスクをするということになるのでしょう。

 コロナ・ウィルスはいつでもどこでも、みんなの鼻で増えつづけている。ウィズ・コロナというのはそういうことなんでしょう。
(2021年9月16日)