ミシュランでも菜食

 世界一のレストランが肉料理をやめます。ベジタリアンになります。

 そう決めたのはニューヨークのレストラン「イレブン・マディソン・パーク」。ミシュランの三ツ星、世界のトップ50レストラン・ランキングで1位、文句なしの世界最高峰です。オーナー・シェフのダニエル・ハムさんが、もう肉は出さないと決めたと、ニューヨーク・タイムズが伝えています(The New Menu at Eleven Madison Park Will Be Meatless. May 3, 2021, The New York Times)。

 ミシュランの三ツ星がベジタリアンになる。驚きですね。
 理由は気候変動、地球温暖化です。ハムさんはいいます。
「いまのような食のしくみはつづくわけがない、いろいろな意味で」
 だから、肉はやめる。

 イレブン・マディソン・パークは去年3月、コロナの影響で一時閉店となりました。以来ハムさんはずっと自分のキャリアについて考えてきたといいます。世界のトップをきわめたいま、自分は何をすればいいのか。
 決心したのは昨夏でした。もうフォアグラやラベンダー風味の鴨肉なんか出さない。すべての肉料理をやめる。
「ゆたかさとは何かについて、私たちは考え方を変えなきゃいけないと悟ったんだ。これまでのようなやり方はもうできない」

 タイムズの記事を読むと、劇的な転換はただの気まぐれではないことがわかります。
 ハムさんはコロナで店を一時閉鎖している間に、「イレブン・マディソン・トラック」という事業をはじめています。コロナで職を失い、食べていけなくなったニューヨーク市民に食事を届ける活動です。これをNPO「リシンク・フード」(Rethink Food、食を考え直そう)とともにつづけました。そうした積み重ねから、食について、食のしくみについて、考えぬいたのでしょう。

 コロナ禍が収束すれば、イレブン・マディソン・パークは近く再開されます。その動向はアメリカだけでなく、世界のレストラン界に大きな影響を及ぼすでしょう。けれどハムさんは、新しいレストランはコーヒーに牛乳を出したりするので厳密な菜食ではないといいます。それに、厳密な菜食主義にはちょっと引いてしまうところがある。
「私がしたいのは、お客さんに驚いてもらうこと。説教するつもりはないんだ」

 美味ではなくて、驚きを。
 ひとつの道をきわめた人は、おのずと身についたことばと哲学があるんですね。
(2021年5月16日)