リワークという試み

 デイケアに、見なれない人がポツポツやって来ます。
 社会福祉協議会の人ではなく、外来の患者でもない。空気が一般の社会人っぽい。聞けば、“リワーク”にやって来る人でした。

 リワークというのは、しばらく前から診療所ではじまったプログラムです。
 いちど社会人になって仕事についた人が、調子を崩して精神科のお世話になり、またもういちど仕事にもどりたいというとき、これを応援するプログラムです。

 ここに“健常者ふう”の人が来るようになりました。一般の会社員だけでなく、教員や公務員も増えているようです。リワークはいまや浦河ひがし町診療所でも人気のプログラム。それだけニーズがあるのでしょう。

 統合失調症やうつ病などのさまざまな精神疾患で、退職したり休職したりした人は、治療を受けて回復しても、元の職場に復帰すればまたおなじ病気になることがあります。再発すれば悪化するかもしれない。
 これまではがまんし、がんばって仕事をつづけるしかありませんでした。
 そこをちょっとくふうできないだろうか。復職してからの再発を防ぐにはどうすればいいのか。そう考えたところから、リワークは生まれました。
 いわば、復職前の準備です。ときには復職してからのフォローです。

 ちょっと考えると、矛盾しているようにも見えます。
 無理だから仕事をやめたのに、その無理な仕事になぜもどるのか、もどすのか。そんなことがうまくできるだろうか。
 そこで一般的には、病気の理解だとか、発病したときのふり返りだとか、心理療法、認知行動療法などいろいろなことをするようです。

 ひがし町診療所的にいえば、そこでたいせつなのは「働くこと以前」を考えることでしょう。なんでリワークを受けるのか。なぜがんばるのか。それ以外の生き方はないのか。あなたは何をしたいのか。
 働いてこわれたから、治してまた働けるようにする、というのではないのですね。

 受講生のひとりがいっていました。
「だいぶ働けるようになりました。でもワーカーにいわれたんです。それで治ったと思うなよ、って。ほんと、そうですよね(笑)」
 病気以前の自分にもどろうとするのを、ちょっとだけ抑える。リワークの効用です。
(2021年9月19日)