アメリカきっての論客のひとり、トーマス・フリードマンさんが「戦争終結への3つのシナリオ」をニューヨーク・タイムズに寄稿しました。
ウクライナ戦争がどうなるかの予測ですが、ぼくはこれを「プーチン政権の内部崩壊を目ざそう」という踏みこんだ提案と読みました(I See Three Scenarios for How This War Ends. By Thomas L. Friedman. March 1, 2022, The New York Times)。

フリードマンさんのウクライナ戦争終結にいたる3つのシナリオは、ひとつめが「完全な破滅」です。
ウクライナの執拗な抵抗に手を焼いたロシアが、人道無視、戦争犯罪そのままの破壊と虐殺をくり返し、想像を絶する被害をこうむったウクライナが消滅するという結末です。戦争はいま現在この方向に向かっている。
2つ目は「汚い妥協」。いずれかの時点でロシアとウクライナが闇取引をして停戦、ウクライナは領土を大きく失いロシアの属国になる。しかしこれはロシア帝国の再建を目指すプーチン大統領にとって不完全な形でしょう。可能性は低い。

(キエフ、2月26日)
3つ目が、プーチン政権が内部から崩壊するという、そうなればいいなと誰もが望む結末です。
フリードマンさんはいいます。ますます多くのロシア人が、プーチンがいるかぎり自分たちに未来はないと思うようになるだろう。あのロシアでも、狂気の戦争を止めるために数千の市民が身の危険をかえりみず反戦デモに参加している。その動きの広がりを期待できないだろうか。
デモに行かないロシア人にも、すでにさまざまな異変が及んでいる。私の友人がいっていた。スイスではロシア人指揮者のコンサートが中止され、オーストラリアのナショナル・チームはロシアの水泳大会をボイコットし、アメリカではバーテンダーがウォッカの中身をドブに捨てている。文化、商業、スポーツ、旅行、あらゆる分野でロシアへの抗議が起きている。ルーブルは下落し、市民の経済的な疲弊はさらに広がるだろう。

ロシア人は、どこにも行けないような国に閉じこめられて暮らすのか、それともみんなで力を合わせてプーチンを追い出すか。プーチン政権の中枢に、そういう声があがらないともかぎらない。側近がそう思うようになったとき、ロシアの大衆もまたそう考えるようになるだろう。
3つ目のシナリオはもっとも可能性が低い。しかし1989年、ベルリンの壁が崩壊したときも、誰もそんなことが起きるとは思っていなかった。私たちはいまこの時点でも、完全に自由なヨーロッパという夢を捨てるべきではないと、フリードマンさんはいいます。
必要なのは力だけではないということ。そのことを「3つのシナリオ」というタイトルに託して伝えています。
(2022年3月3日)