ロシア軍の被害

 ウクライナ情報が洪水です。
 ぼくがこのなかで、いちばん興味を持って見ているのは「戦況」です。
 2週間近くたち、ある種のカンがつかめてきました。ロシア軍は初戦敗退です。しかし、だからといっていまの時点でウクライナが勝つと予測するのは軽薄、いや危険でしょう。

 ネット上にはフェイク情報があふれている。でもぼくはSNS情報はほとんど見ません。
 見るべきはアメリカ、イギリスの情報機関の情報です。それを伝える米英のメディアに目を通すわけですが、じゃあみんなとおなじ情報かというと、そうでもない。そういう情報の「見方」があります。ぼくの場合、90年代のイラク戦争で身につけた見方です。

ゼレンスキー大統領 Facebook から(5日)

 戦況について、またひとつカンがつかめたと思わせてくれたのは、ニューヨーク・タイムズのマーク・サントラ記者が書いた8日の記事でした(Battlefield reports are murky, but signs of Ukraine’s successes emerge. March 8, 2022, By Marc Santora, The New York Times)。

 開戦から2週間近くになり、ウクライナ軍はロシア兵の戦死者1万2千人と発表している。航空機48機とヘリコプター80機を撃墜、戦車303両を含む軍用車両数百台を破壊した。もちろん確認はできない、かなり水増し数字かもしれません。
 一方、ロンドンの専門家が衛星写真などを使って分析したところによれば、ロシア軍の損害は戦車140両、軍用車両950台。未確認の損害を加えればもっと増えるはずだといいます。
 さらにサントラ記者は「アメリカ情報機関の報告を知る複数の政府筋」が明らかにした「控えめな推測」として、戦士したロシア兵の数を3千人と伝えています。

ゼレンスキー大統領 Facebook から(5日)

 ぼくがいちばん注目したのは、記事の末尾の一文でした。
「戦場での目撃情報を加味するならば、ロシアは重大な損害を受けたことがますます明らかになってくる」
 重大な損害。軽はずみな分析などしないタイムズにしては、相当踏みこんだ表現です。これを読んでぼくは、ウクライナ戦争はどうなっているかについての、ひとつの「カン」をつかんだのでした。

 タイムズ紙報道のあと、アメリカ議会では国防情報局長が「ロシア軍の犠牲者は2千人から4千人」と証言しています。あいだをとれば3千人。つまり議会で発表される数字を、タイムズ紙は事前につかんでいたのですね。
 戦死者は1万2千人と3千人のあいだ。でもロシア兵の総数は19万人。
 プーチン大統領は犠牲者の数なんか気にしないだろから、戦争は長引きます。
(2022年3月9日)