日本でいえば伊勢エビ、ロブスターは、むかしは囚人の食べ物だったそうです。
アメリカの東海岸はロブスターだらけ、誰も見向きもしなかった。農作物の肥料にされるか、貧乏人が隠れて食べる粗食だった。18世紀のことですが。
それがいまや、めったに食べられない贅沢品になりました。
グルメが増えたのか、金持ちが増えたのか、資源が減ったのか。ともかく現代人の食卓は変わったとBBCが特集しています(The everyday foods that could become luxuries. 27th September 2021, BBC)。

ロブスターだけでなく、ウニやカニなどの高級食材はみな高騰し、乱獲され、ますます貴重品になりました。庶民はとても手が出ない。
一方、逆の動きもあります。むかし高級だったのに、いまは庶民の食べ物になっているもの。砂糖がその代表でしょう。王侯貴族の食べ物だった砂糖は、安価な日用品になりました。時代とともに、食材のイメージは変わります。
本題はここからです。
コーヒーやカカオも、これからふたたびイメージが変わるのではないか。
コーヒーもチョコレートの原料になるカカオ豆も、かつては貴重品でした。それがいまや世界中に広まり、ありふれた日用品になっています。そのイメージが変わるだろうと、オクスフォード大学の研究者モニカ・ズレックさんはいいます。
「カカオ生産地の多くが、これから気候変動で不毛の地になるでしょう。チョコレートもコーヒーも希少な贅沢品になるかもしれない」
年間の気温が2度上がれば、産地によってはコーヒーの生産量が激減する・・・

ここに来てぼくは、BBC報道のほんとうのテーマが、ロブスターではなく気候変動だと理解したのでした。
そして思いました。こういう筋道をたどると、温暖化は身近なテーマになる。
子どものころ、チョコレートは貴重品でした。一片のチョコレートにどれほどこころ踊らせたことか。それがいまはスーパーにあふれ、バレンタインで乱造される。
こういう、ものがあふれる社会で日常になったチョコレートが、また貴重品にもどるかもしれないというなら、それもまたいいのではないか。
むかしを知っている身としてはそう思います。
気候変動を考えるというのは、ぼくらが少しだけ身をすくめる、地味な暮らしにもどるってことじゃないのか。そんなふうにも思うのです。
ロブスターはなつかしいんですけどね。
(2021年10月5日)