ワインの瓶を軽く

 温暖化をめぐる議論は、ぼくらの暮らしのあちこちに入りこんでいます。
 電球をLEDに替えるとか車を電気自動車にする、だけじゃなく、牛肉を控えて鶏肉にする、多年草の小麦を育てよう、といった具合に。
 そういう議論のひとつが、「ワイン・ボトルを軽くしよう」という呼びかけになっています(The weight of that wine bottle doesn’t indicate quality, and it’s hurting the planet. November 4, 2021, The Washington Post)。

 ワイン業界で「軽く」といえば、ふつうは味。軽くさわやかな飲み口のワインを指します。でもいま「軽く」といえば、瓶の重さの問題になる。イギリスのワイン評論家、アリーシャ・ハンセルさんはこういっています。
「私たちが直面しているのはもはや気候変動ではない。気候危機。この危機はワイン文化を脅かしている。ワインによる炭素排出といえばなによりもガラス瓶、この問題に直面しなければなりません」
 ワインの瓶を軽くするために、ハンセルさんはひとつのシンプルな提案をしています。ワインのラベルに、ボトルの重量を明記する。こうすれば消費者は、「より気候に正しいワイン」を買うようになるだろうから。

 瓶の軽量化は、かならずしも順調に進んでいるわけではありません。業界専門誌ワイン・ビジネス・マンスリーによれば、世界最大のワイン消費地であるアメリカでは、重さ850グラム以上の重い瓶がむしろ増えている。なぜかといえば、消費者が「高級ワインほど、瓶が重たい」と思っているから。
 これはまったくの迷信です。ワインのよさと瓶の重さは関係がない。アメリカで使われるワインの瓶の40%は中国から輸入されるけれど、重たい瓶は製造過程で炭素を多く排出するだけでなく、輸送でも炭素を増やします。

 とはいえワインの瓶の軽量化は時代の流れです。カナダのオンタリオ州では、2023年から420グラム以上の瓶について流通が規制されることになりました。
 ガラス瓶のリサイクル率を上げようという声もあります。またガラス瓶をやめて紙パックにしようという動きもある。それぞれが気候変動、いや気候危機への対策をとるべきだという、じわりと強まる圧力のもとに進んでいます。歓迎すべき変化でしょう。

 ワインについては迷信が多いんですね。
 ぼくもこれまで何となく、いいワインはコルク栓が長くて瓶が重たいものだと思っていました。そういう迷妄から抜け出さなきゃいけません。
(2021年11月10日)