ワクチンのちがいを知る

 アメリカで、3つ目のコロナ・ワクチンが承認されました。
 新たに認可されたのはジョンソン&ジョンソン社のワクチン、今週から接種がはじまります。
 3種類のワクチンが登場し、意外な論争が起きました。
 どのワクチンを誰に接種するのか? 高価なワクチンは白人の富裕層に、安い「粗悪な」ワクチンは黒人層に使われるのか?

 すでに圧倒的に多くの犠牲者を出している有色人種が、ワクチンでも格差にあえぐのかという論争です。ワシントン・ポスト紙が伝えています(Concerns over racial and geographic inequities deepen with rollout of Johnson & Johnson vaccine. March 1, 2021, The Washington Post)。

 結論からいえば、どのワクチンでも大丈夫。
 3種類のワクチンは医学的に見ればどれも有効。ただ、それぞれ性質がちがう。そのちがいを知ってどう対処するかは医学の問題ではなく、“ふつうの人”がどう考えるかの問題です。

 新しく登場したジョンソン社のワクチンは、治験段階で66%有効とされました。一方先行する2社、ファイザーとモデルナのワクチンはいずれも94~95%の有効性。これだけ見ればジョンソンは「効かない」ことになります。でも、そこだけ見てもて全体はわからない。

 66%は、おおざっぱにいえば「感染を防ぐ」確率。「感染」ではなく、ジョンソン・ワクチンは「重症化」に対して高い効果がある。つまり感染しても重症化しないし死ぬこともない。ここを見れば、3社のワクチンにそれほどの差はない。

 むしろジョンソン・ワクチンはほかにない大きな利点があります。
 先行2社のワクチンは2回接種だけれど、ジョンソンは1回ですむ。おまけに通常の冷蔵庫で保管できる、使いやすいワクチンなのです。
 そのうえ、コロナの変異株「南アフリカ型」にも効果がある。これは医学的に見てジョンソンのいちばんの強みでしょう。後発メーカーの強みかも。

「白人にはいいワクチン、黒人には粗悪品」というのは、ジョンソン・ワクチンへの誤解から生まれたいいがかりです。「粗悪品じゃない、これもいいのさ」とていねいに説明し、「2度注射されるより、1度がいいでしょ」とにっこりすれば、うまくいくんじゃないかな。

 コロナはずっと減りつづけてきたけれど、先週になって下げ止まり、アメリカでも再上昇の兆しを見せています。感染力の強い変異型が広がっているのと、早すぎる規制緩和のせいだとWHOは警告しています。
 ワクチン接種は、時間との勝負です。
(2021年3月2日)