スコットランドのグラスゴーで開かれていたCOP26、国連の気候変動会議は、会議そのものも省エネならぬ“省炭素”をめざしました。
4万人近い参加者の飲食も、プラスチックのフォークやスプーンを廃止し、使い捨てコップの代わりに参加者はマグボトルを持ち歩くことが奨励されたとか。しかも全食事の60%がベジタリアンだったそうです。どういう計算でそうなるかぼくにはわからないけれど。

温暖化防止のために、肉食を控えて菜食を。これはいまや先進の流れです。とはいえ言うは易く行うは難し。ロンドンの最高級ホテル「クラリッジ」で、もめごとが起きました。(The top chef at Claridge’s hotel in London wanted to go all vegan. Meat stayed and he didn’t. November 13, 2021. The Washington Post)。
メイン・ダイニングの料理長が、メニューをぜんぶ菜食に切り替えると主張して経営と対立、ついに解雇されたのです。それだけなら、まあ頑固な料理人もいたもんだという話で終わる。でも料理人がミシュラン3つ星に輝く世界最高峰のシェフ、ダニエル・ハムさんだというから、これはちょっとした騒ぎです。
世界最高峰の5つ星ホテルと、世界最高峰の3つ星料理人の対決。
そこで賭けられたのが「肉食の全廃」、これはひとつの時代の区切りです。
ダニエル・ハムさんが、ニューヨークのレストラン「イレブン・マディソン・パーク」のメニューを、ヴィーガンと呼ばれる完全菜食に切り替えることにしたのは、このブログでも書きました(5月16日)。そのハムさんがクラリッジの総料理長になり、キャビアやラベンダー風味鴨肉なんかぜんぶやめて完全菜食にするといったのです。
クラリッジ・ホテルは声明で、「彼の考え方には敬意を払うが、これはクラリッジが取るべき方向ではない」と、ハムさんとの決別を告げました。

(Credit: Tim Westcott, CC BY-SA 2.0.)
イギリスの伝統社会は、そこまで大胆になれないということでしょう。
この対立は、いまの気候変動問題を象徴しています。
そこでハムさんがいっていることはとても新鮮です。彼はニューヨーク・タイムズにいいました(と、ワシントン・ポストが伝えている)。
「私たちは何がぜいたくかについて、考え方を変えなければならない」

ぜいたく(luxury)とは、たんにおいしいものを食べ、快楽を貪ることではない。
ぼくらの住む地球がどうなるか、ぼくらの子や孫がどうなるか、そうしたことへの配慮がなければ、ぜいたくはもはやぜいたくではない。きっとそういいたいんでしょう。
ただの料理人ではありません。哲人です。
(2021年11月14日)