下北沢で本を読む

 落ちついて本が読めるブック・カフェがないものか、かねて探していました。
 どうだろうかと出かけたのが「フヅクエ」。
 下北沢にあるちょっと変わった店です。ネットではブック・カフェといわず、「本が読める店 fuzkue」となっている。フヅクエは「文机」から来てるんでしょう。
 いわゆるブック・カフェではない。もちょっとココロザシがあります。店にも、客にも。
 といって気取った、気づまりなドクショ空間でもない。
 下北沢的な雑駁さ、なれなれしさがありながら、ちゃんと本が読める。

 自宅から1時間もかけてこの店に行ったのは、店主の阿久津隆さんの本を読んだからです(『本の読める場所を求めて』朝日出版社)。フヅクエは、阿久津さん自身が欲しいと思っていた空間だったんですね。その思いが、なるほどと思わせる形になっている。
 それがわかったうえで行けば、2時間あまり滞在してコーヒーとチーズケーキで1980円は高くない。
 意外と狭い店内だけれど、本を読みだすと気にならない。そうなるよう、店のしくみや店員のたたずまいが考えられている。その背後にある「本を読む」ことへの思い。フヅクエに来るということは、まるでフヅクエじたいを本として読むような経験です。

フヅクエは奥の建物の左側部分

 当日、ぼくは入江杏さん編著の『悲しみとともにどう生きるか』(集英社新書)と、アイスランドの作家ラグナル・ヨナソンのミステリを読みました。読書のあいまに、ひと休みして目をあげると店内の書架に『メカスの映画日記』だとか『ストーナー』といった、なつかしい本があります。ああ、この本、読みたいなと思う本もいくつかありました。

 こんどはそういう本を、アイリッシュ・ウィスキーをちびちびやりながら読むのもいいかもしれない。でもそうするには、やっぱり家の近くにないと。フヅクエはことし3軒目の店を荻窪に出すとか。横浜にもつくってくれないかなあ。
(2021年1月21日)