世界一のオリーブ油

 以前、エリア・スレイマン監督の映画「天国にちがいない」について書きました(3月18日)。映画のなかの、パレスチナのオリーブ畑をよく思い出します。
 そのあたりで、「世界一のオリーブ油」ができるという記事がありました(The Best Olive Oil in the World? This Village Thinks So. Oct. 19, 2021, The New York Times)。

 村の人が世界一というオリーブ油は、イスラエル北部、ガリラヤ地方のラメー村でつくられています。紀元前5千年からの伝統だとか。
 ラメー村のオリーブが飛び抜けているのは、ひとつには内陸部なので害虫が少なく、十分に熟してから収穫できるためです。また畑に家畜を放し、肥料を使わない、人手をかけて手で収穫する。そうして搾ったオリーブ油はなめらかで適度な苦さがあり、繊細な果物の芳香にあふれています。地元では、イタリアのエトナ山の最高級品よりいいとされている。

 さぞかし高価だろうと思ったら、販売はしていないということでした。
 1948年の中東戦争以降、生産が激減し、いまでは村人が自家用につくるだけです。
 でも村では、オリーブ油が暮らしの中心。クッキーもパンも、ムジャダラというレンズ豆入りのピラフも、すべて自家製オリーブ油でつくる。咳が出たらオリーブ油を胸に塗り、頭が痛いときには温めたオリーブ油を耳の穴に一滴たらす。
 そういう暮らしをしてきた村人がいいます。
「なんで料理なんかつくるんだ? 世界一の食事は、パンを搾りたてのオリーブ油に浸して食べる。それだけ」

 ラメー村のオリーブ油、いっぺんぜひ食べてみたい。
 もう20年近く前だけれど、ぼくはイタリアから帰ってきたばかりの人から「搾りたてのオリーブ油」をもらったことがあります。いまでも覚えています。味と香り、なめらかさ、こくのある舌触り、そのすべてから湧きあがるみずみずしさ。
 いいワインとは別種のすばらしさがありました。

 一般に市販されているオリーブ油に、そこまでのものはありません。
 オリーブ油は鮮度が命。摘んだら8時間以内に絞り、出荷する。そういうオリーブ油は「賞味期限」ではなく「収穫日」がラベルに明記してある。それにくらべると、「エキストラ・バージン・オリーブ」なんていう表記は、まがいものが多いらしい。

 あるオリーブ油生産者がいっていました。
「オリーブ油を選ぶようになると、あなたの暮らしは変わる」
 なんだか、わかる気がします。
(2021年10月20日)