中国の女子テニス選手が、共産党幹部に性的暴行を受けたと公表しました。
公表直後から、彼女は消息不明になった。
WTA、女子テニス協会は、中国に対し事実を解明するよう求めています。
そしたら18日になって、「あれはウソでした」と本人がメールでいってきた、と中国国営放送CGTNが伝えました。WTAは余計な詮索をしないように、と。
なんとまあ見えすいたことを、とあきれます。欧米のメディアがこの件をこぞって伝えています(China Can’t Censor Away Growing Anger Over Athlete’s #MeToo Accusation. Nov. 17, 2021, The New York Times. ほか)。

(Credit: JCTennis.com, CC BY-SA 2.0.)
事実関係を記しましょう。
消えた選手は、ウィンブルドンの女子ダブルスで優勝したペンシューアイ(彭帥)さん、35歳。
彼女が長年にわたり性的暴行を受けたと告発した相手は、中国共産党最高指導部にいたチャンカオリー(張高麗)前副首相。
彼女はこう書いたとタイムズは伝えています。
「被害を受けたのが私だけでも、私はいう。壁に投げられる卵となっても、火に飛びこむ蛾となっても、私は真実を述べる」
いのちがけの告発は、即座に拡散する一方で、中国のネットから削除されました。

本人が「あれはウソでした」というメールを送ってきたことについて、WTAのスティーブ・サイモン最高経営責任者は、「本人が書いたものかどうかわからない」と否定的で、ペン選手との直接の接触を求めています。もちろん中国側は応じない。
WTAは、事態が明らかになるまで中国でのゲーム開催を控える意向と伝えられます。

でもペン選手はひとつだけめぐまれていました。
ナオミ・オオサカ、ノヴァク・ジョコビッチ、セリーナ・ウィリアムズといった、テニス界のチャンピオンがこぞって声をあげたから。「発言を止めるな」「ショックだ」「調査せよ、沈黙してはならない」と。中国では抹殺されたとしても、彼女がいのちがけで告発した事実を、多くの人は忘れないでしょう。
その一方で、ペン選手のように告発もできず、名前も顔も残らずに消された人が、ウイグルに、チベットにどれだけいることか。その数さえ、ぼくらは知りません。
そんな問題は何もないといって、中国は来年2月、冬季オリンピックを開催します。
バイデン政権はこのオリンピックに「政治的不参加」を呼びかけるらしい。選手は参加しても、政治家は参加しないということでしょう。
ぼくは、壁に投げられた卵という、彼女のことばを記憶します。
(2021年11月19日)