人工のフォアグラ

 世界三大珍味のひとつ、フォアグラ。
 これを人工的につくろうとする企業が現れました(Investors Bet on Foie Gras Grown From Cells in a Lab. July 17, 2021, The New York Times)。

 フォアグラはガチョウやカモの肝臓です。たしかにおいしいんだけれど、問題はその作り方。農場で飼われている鳥の口にホースを突っ込み、強制的に大量の餌を流し込む。過食で脂肪がつき肥大した鳥の肝臓を、ぼくらが珍味とよろこんでレストランで食べているというわけです。

 強制給餌で、ガチョウやカモは体重が10倍に増え、歩くことも呼吸も困難になる、そんなふうにしてできるフォアグラを食べてはいけないと、動物愛護団体が長年にわたり非難していました。そしてついに、カリフォルニア州につづきニューヨーク州でも、2020年からフォアグラの販売が禁止されました。イギリスやノルウェーでは、とっくに生産禁止だそうです。

ガチョウ (Pixabay)

 あのフォアグラが食べられなくなる。
 世界中のグルメが眉をひそめるようになりました。
 好機到来と動き出したのが、パリのグルメイというベンチャー企業です。ガチョウの卵から細胞を取り出し、培養して人造フォアグラをつくるという試みに挑戦してるとか。応援する投資家も各方面に現れたと、ニューヨーク・タイムズが伝えています。

ガチョウのフォアグラの料理 (Pixabay)

 動植物の細胞を工場で培養する方法は、すでにさまざまな分野で激しい競争が進んでいます。鶏肉などはかなり使える製品ができているので、そうした人工チキンをチキン・ナゲットに混ぜるようなことが一部の国ではじまりました。
 とはいえ、自然の味には及ばない。フォアグラほどの高級品になるとちょっとやそっとではできそうもないと思うけれど、じつはフォアグラ、つまりアンコウの肝と似かよった食感のこの種の食材は、ステーキ肉なんかよりずっとつくりやすいともいわれます。
 グルメイ社は、来年から製品を出荷したいといっています。問題は価格で、人工フォアグラは試作段階だと天然物の5倍から10倍。本場のフランスでは需要が見込めないでしょう。でもアメリカやシンガポールなど、人工肉への抵抗感が少ないところなら食べる人もいるんじゃないかと、グルメイ社は期待しているようです。

 そのうち、本物のフォアグラを食べた人が、「あ、この味、“フォアグラもどき”にそっくり!」というようになるんでしょうか。
(2021年7月18日)