有名な女優のウーピー・ゴールドバーグさんが、ホロコーストは「人種問題ではない」と発言して騒ぎとなり、謝罪しました。
騒ぎがあったのは1月31日のことです。ゴールドバーグさんはテレビの番組で、ホロコーストは「人種問題ではない」といい、さらに別の番組でその発言について聞かれると、「ナチスは白人。彼らが攻撃した相手もほどんどが白人だった」といったのです。
白人が白人を攻撃したんだから、人種問題ではないというのでしょう。
とんでもないまちがいだと批判されてゴールドバーグさんは謝罪し、2週間のテレビ出演停止となりました。

(Credit: David Shankbone, Openverse)
でもこの発言のどこが問題なのか、日本人にはちょっとわかりにくい。
ナチスもユダヤ人も、日本人から見れば白人です。ホロコーストは白人同士のあいだで起きたのだから、人種差別とはちがうと思いがちです。でも、何かおかしい。
それで調べました。そしてぼく自身も理解が足りなかったと思い返しました(On Whoopi Goldberg’s Comments and the Origins of Racism. By Jamelle Bouie, Feb. 5, 2022, The New York Times)。
確認したほうがいいのは、とりあえず次の2点でしょう。
1)人種というのは科学的に規定されたものではなく、人びとが「つくりだした概念」。だから人によって、社会によって人種の捉え方は変わる。
2)ナチスは「優秀なアーリア人種」という神話をつくり、ユダヤ人や障害者を劣等人種として抹殺した。ホロコーストはまぎれもない人種問題だった。

ぼくらはどうしても人種を黒人や白人のように、明確に区別できる人間集団と思いがちです。でもそうではない。たしかに区別できる部分もあるけれど、社会的、経済的、歴史的そのほか、さまざまな非生物学的な要因で区別される部分がずっと大きい存在です。
問題はそうした差異よりも、そこに「優劣」を持ちこんでしまうことでしょう。白人は黒人より優れている、大和民族は朝鮮民族より優れているというふうに。そういう優劣はかんたんにひっくり返るし、有害、有毒です。
ウーピー・ゴールドバーグさんの発言の前半部分、ホロコーストは「人種問題ではない」は、完全にアウトともいえない。でもそのあと、「白人同士の争いなんだから」はやはりアウトでしょう。ユダヤ人は怒ります。
とはいえこの発言に、ぼくも一瞬、「黒人から見ればそうなるよな」と同調していました。反射神経が鈍かったと反省しています。
(2022年2月7日)