仕切りは効果がない

 コロナになってから、スーパーのレジやレストランなど、人が対面する場所はどこにも透明な仕切りが現れました。
 ビニールやアクリル、プレキシグラスなどさまざまです。
 でも、あれ、効果があるんでしょうか。もしかしたら感染防止には、むしろマイナスなんじゃないかとも指摘されています(Plastic barriers: worse than nothing? August 19, 2021, The New York Times)。

 コロナがはじまったころ、飛沫が広がるメカニズムは十分解明されていませんでした。その後研究が進み、いまではこまかい飛沫は空気の流れによってかなりの距離まで届くことがわかっています。
 この、こまかい飛沫こそが感染のもと。それを防ぐのは仕切りではなく換気です。

 透明な仕切りは、こまかい飛沫にはあまり効果がありません。それどころか、あちこちに仕切りが置かれると、空気の流れが止まる「停滞空間」をつくることすらある。専門家はこれを「デッド・ゾーン」と呼び、ウィルスがたまって濃縮され、感染を広げる危険な場所になるといっています。

「サイエンス」誌に載った6月4日付の論文は、たとえば教室の机に立てられた仕切りはコロナ感染を予防するのではなく、むしろ有害なのではないかと示唆しています。
 空気感染の研究をリードするバージニア工科大学のリンゼイ・マー教授はいいます。
「透明な仕切りに効果があるかどうかは、タバコの煙がどう広がるか考えればわかることなんです」
 仕切りなんか置いても、タバコの煙はやってくる。それとおなじことで、コロナを乗せたこまかい飛沫は仕切りを越えて広がってくる。だったら仕切りよりも換気やマスクを重視すべきだというわけです。

 仕切り板や幕については、当初からさまざまな疑問の声がありました。でも広がったのは、感染のしくみがよくわからなかったからです。ところが研究が進めば進むほど、仕切りの効果は相対的に低下しているかのようです。
 それで仕切りをつづけるのは、とくに日本の場合「顧客の目」「他人の目」を気にするからでしょう。そういう「おつきあい」の措置は、むしろほんとうの危険を見えにくくしてしまいます。

 専門家が一致しているのは、コロナ対策の柱はワクチンだということです。
 そのうえで、マスク、ディスタンス、換気でしょう。それも一律にではなく。
 仕切り板の大胆な見直しを進める。そのようにして「コロナ疲れ」を少しでも減らすべきではないでしょうか。
(2021年8月22日)