マイナーな話で恐縮ですが・・・。
アメリカではヒー (he) やシー (she) の代わりにゼイ (they) を使うというトレンドを、20日のこのブログで紹介しました。イエール大学のイアン・エアーズ教授のワシントン・ポストへの投稿でした。
この話題、ニューヨーク・タイムズも取りあげています。ジョン・マクウオーター編集委員のオピニオンとして(Gender Pronouns Are Changing. It’s Exhilarating. By John McWhorter, Sept. 21, 2021, The New York Times)。

二人がいっているのは、こういうことです。
ある人が男か女か、トランスジェンダーかノンバイナリーか、何だかわからないとき、その人をヒー (he) やシー (she) と呼ぶのではなく、ゼイ (they) と呼んでしまおう、ということです。
マクウオーターさんがあげた例文はこうでした。
「ロバータは髪を切りたい。そして“ゼイ”はハイライトもしたい」“Roberta wants a haircut, and they also want some highlights.”
(ハイライトっていうのは、濃淡をつけた髪の染め方のようです)
この文の後段は、本来なら「そして“彼女”はハイライトもしたい」となるべきところを、“彼女”ではなく“ゼイ”にしている。ロバータは女だろうけれど男かもしれない、性別を明示したくない人かもしれない、ということで。

こんなゼイ (they) の使い方は、ちょっと無理筋じゃないかと思いたくなるけれど、マクウオーターさんはそう思わない。英語の歴史をひもとくと、そんな例はいくらでもあるからと。
たとえば古い英語の方言には男も女もともにヒー (he) だったものがある。現代英語でユー (you) は単数も複数もおなじだけれど、むかしは単数はザウ (thou) と決まっていた。動詞の一致なんてけっこういいかげんで、18世紀の文献には “I wish you was nearer to us.” と書いたものもある(日本の学校ではこれはバツ印)。現代でも黒人英語は “They wants to see you now.” ということがある(日本英語では wants が want でなければなりません)。

だからヒー (he) やシー (she) の代わりにゼイ (they) を使うのは無理、とはいえない。実際ゼイ (they) に統一されるかも、とマクウオーターさんはいっています。それだけ、社会的圧力は強まっているので。
こういう“まちがった英語の使い方”に、ぼくは興味をかきたてられます。
LGBTQ+問題の先端ということもあるけれど、言語はつねに変容し異端も正統もないということだし、そこで万華鏡のような変化を楽しみたいという感覚をおぼえるからです。
(2021年9月23日)