先鋭なワクチン論議

 アメリカで、コロナ・ワクチン接種率が30%に達しました。
 すでに感染して治った人を含めると、全国民の35%以上が免疫を獲得したと推定されます。集団免疫が達成されるのは70%だから、その半分までは来たということでしょう。
 明るい話題が増えています。学校や行事が再開され、航空会社は予約が急増している。デルタ航空は「真ん中の席」の予約も受け付けるようになったとか。春とともに“ふつうの暮らし”がもどりつつあります。

 イスラエル、イギリス、アメリカ。
 コロナ対策の鍵はワクチンと、最初から見据えて戦略を立ててきた国々です。
 さすがだよなあ、と思っていたら、いやもっと大胆なワクチン論議があるというので驚きました。日本ではこんな議論はありえないし、その発想すらない。考えこみました(Are We Way Too Timid in the Way We Fight Covid-19? By Ezra Klein, Opinion Columnist, April 1, 2021, The New York Times)。

 議論の要点は以下のようなものです。
1)ワクチン対策にもっと巨額の投資を。
2)ワクチン接種を迅速に達成するために「半量接種」を。それでも効果はあるし、受けられる人は2倍になる。
3)2回接種が必要なワクチンはとりあえず1回で済ませる。広く薄く。でも迅速な集団免疫は可能だ。
4)旧来の枠組みにとらわれないワクチンの迅速な承認を。
5)希望者がいるなら、「人体実験」を認めてまでもワクチンの開発を。

 これは無責任な学者が思いこみでいっているわけではなく、すでに1年前から何人もの専門家がくり広げてきた議論を、オピニオン欄の寄稿者エズラ・クラインさんがまとめたものです。

 実際、こうした論点のいくつかは、たとえば「2回接種のワクチンを1回で」は、「2回目の接種時期を大幅に遅らる」という形でイギリスで実現されている。そして確実に効果を上げています。
 米英のワクチン戦略は、今回のコロナではじまったわけではありません。20年近くも前にはじまったAMC(Advance Market Commitments)というワクチン開発戦略の延長上にありました(その中心にビル・ゲイツさんがいたとか)。

 30%のアメリカと0.8%の日本。
 明るい話題が増えている国と、“まんぼう”で出口が見えない国。
 従来の枠組みを超える発想ができるかどうかで、ぼくらの社会のあり方はこうも変わります。
(2021年4月2日)