出生前検査の誤り

 出生前検査の一部は、誤判定の率がきわめて高いとニューヨーク・タイムズが調査報道で明らかにしました(When They Warn of Rare Disorders, These Prenatal Tests Are Usually Wrong. Jan. 1, 2022. The New York Times)。

 出生前の胎児の検査、出生前検査(診断)は、いまアメリカの妊婦の3人に1人が受けています。妊婦の血液を調べれば胎児のようすがわかるので、この10年、検査を受ける人が急激に増えました。
 もともとは胎児のダウン症を調べるためにはじまったものです。かつては危険で大がかりだった検査が、かんたんな血液検査でもかなりの確度で判定できるようになりました。問題は、ダウン症以外に検査の網が広がったことで、そこでの誤判定が多いことです。それも8割から9割という、かなりの誤りがあることがわかりました。

 タイムズ紙がとりあげているのは、胎児の染色体の一部が欠けているかどうかを調べる「微小欠失」検査です。
 たとえば15番染色体に微小欠失があると、プラダー・ウィリ症候群という発達の遅れなどをともなう難病になることがあります。新生児1万5千人に1人のめずらしい病気ですが、この検査の判定は93%が誤りでした。
 22番染色体の微小欠失で起きるディ・ジョージ症候群は81%が誤判定。5番染色体で発話の遅滞などがあるクリデュシャ症候群は、80%が誤判定だということです。

ヒト染色体は23対、46本ある
(画像 iStock)

 誤判定は、妊婦にたいへんな衝撃を与えます。別な検査を受けて大丈夫とわかるまで不安の底に落ちこむ人もいる。なかにはそのまま中絶を選ぶ人もいるようです。

 どうしてこんなことが起きるのか。タイムズ紙は実情を冷静に詳しく伝えています。それをぼくなりにまとめるならば、いちばん大きいのは検査を進める企業の商業主義でしょう。
 ダウン症の診断が手軽にできるようになり、検査を受ける人が増えた。多くのバイオ企業が参入し、ダウン症だけでなく「ほかの異常もわかります」と、検査項目を増やしていった。出生前検査はいまや10億ドル市場、求める親がいるかぎり検査はつづくということでしょう。

 もちろん、そうしたことすべての背後には、「子どもを選ぶ」というもっと大きな背景があります。それをどう考えればいいのか。考えるための手がかりはどこにあるのか。思いめぐらすほどに、「子はさずかりもの」という古来の知恵がゆらぎます。
 おそらく、ほんとうに考えるときは「現場」にいなければならないのでしょう。出生前診断というより、いのちの現場。子どもが生まれ育つ、その現場にいること。そうすればぼくは、何かひとこといえるようになるのではないかという気がします。
(2022年1月7日)