出生届の性別廃止を

 出生証明書から性別欄をなくすべきだ。
 アメリカ最大の医師の団体、アメリカ医師会(AMA)のなかからこんな提言が出てきました。
 ワシントン・ポストが伝えています(Remove ‘male’ and ‘female’ from birth certificates? Here’s why the country’s largest group of physicians recommends it. August 10, 2021, The Washington Post)。

 提言をまとめたのは、アメリカ医師会のなかのLGBTQアドバイザリー委員会です。
 日本の出生届にあたるアメリカの出生証明書には、当然ながら性別欄がありますが、それを削除すべきだというのです。なぜなら、生まれたときに男か女を決めることは、「ジェンダーの医学的な多様性を認めないことになるから」です。医学者や行政が生まれた人の性を規定すると、それはジェンダーは2つしかないという考え方を固定することになる、そうでない人を「矮小化してしまう」と報告書はいいます。
 医師会も、ジェンダーの多様性、スペクトラム性を認めようということですね。

 すでに右翼保守派からは「こんな馬鹿げた話はない」など、激しい反発が起きています。共和党国会議員のあいだでも反対の声が上がり、彼らが騒いだおかげでこの報告書は広く知られるようになりました。
 アメリカ医師会には、ただちにこの提言を医師会の総意として認める動きはないようです。とはいえ傘下のれっきとした委員会から出てきた提言だから無視することもできない。いずれ広範な議論がはじまるでしょう。

 アメリカではすでに15の州で、出生欄に男(M)でも女(F)でもない「X」を記入することが認められています。また国務省はアメリカ市民のパスポートの性別欄に「X」が記入できるように制度を変えるといっています。
 一方南部の保守的な州などではXどころか、性別の変更も容易ではありません。トランス・ジェンダーの生徒のスポーツ参加を認めないといった動きも起きています。社会的な混乱はつづくでしょう。
 しかし大きな流れはLGBTQの側に変わっている。Xの記入だけでなく、公文書から性別欄をなくすという方向も、今後強まることはあってもなくなることはないでしょう。

 ところで、この記事は「リリー(The Lily)」という、ワシントン・ポストのいわば「別冊」のようなニュースレターに載りました。リリーはミレニアル世代の若い女性をターゲットとしているようで、今回のようなニュースを鋭敏な感覚ですくい上げ発信している興味深いメディアだと思いました。
(2021年8月14日)