BBCの記者がウクライナの最前線からレポートしています。
ひとりの記者が現場で見たことは、戦争全体からすれば無視できるほど小さな断片でしかない。けれどレポートが伝える現場の空気は、全体をとらえる手がかりとなります。クウェンティン・サマービル記者とダレン・コンウェイカメラマンがその空気を伝えていました(On the front line: If Kharkiv falls, all of Ukraine falls. By Quentin Sommerville and Darren Conway, March 10, 2022, BBC)。

激戦がつづくウクライナ東部、ハリコフからのレポートです。
戦争の最初の犠牲者は時間だ、とありました。
戦争の最初の犠牲者は真実だ、のもじりでしょう。前線で日々ロシア軍と対峙するウクライナ兵は、監視と移動、戦闘と爆撃のくり返しで時間の感覚を失う。若い兵士に、病院が砲撃されたのはいつだったか聞くと、きのうかな、いやおとといだったか、よく覚えていない、というような。極度の緊張のくり返しが無感動となって、時間の感覚が薄れているのです。

(11日、本人の Facebook から)
900メートル先に敵がいるという前線。
何人ものロシア兵の死体が、雪のなかに散らばっていました。
あれ、どうするんですか。記者が聞くと古参兵が答える。犬が食うかな。
ロシア兵の戦い方はどうですか。
1941年の戦い方だな。古参兵が即座に答える。でもあとからあとからやってくる。
兵士の乗る車の後ろにはロケット砲が積んであります。装備、弾薬には困っていない。前線から後方に行けば、コーヒーもクッキーも暖かいボルシチもある。2014年以来断続的に戦闘をつづけてきたハリコフの人びとは、戦いに慣れています。

あと何が必要ですか。
空。ロシア側の飛行機がたいへんだ。
航空支援がほしいということでしょう。でも西側はそれができない。すれば欧州大戦になるから。
戦場のいろいろな姿が見えてきます。でもBBCは兵隊だけでなく病院や町の人も取材していました。記憶に残るのはそちらの方です。軍のパトロールに同乗していると、無人の夜の町を歩くひとりの老婆が見えました。兵士が声をかけるけれど、どうしていいかわからないといいます。途方に暮れているようでした。日常を失い、避難することもできない人びと。
戦争になったら、ぼくもこういうふうになるだろうな。
そう思わせてくれる、老婆の姿でした。
(2022年3月11日)