カナダのニューファンドランドと屋久島が結びつきました。千年の時空を超えて(Vikings Were in the Americas Exactly 1,000 Years Ago. Oct. 20, 2021, The New York Times)。
これは、カナダ東部のニューファンドランドという島に北欧のバイキングが千年前に来て住んでいた、というところからはじまる話です。
ニューファンドランドにバイキングが木造小屋を建てていたことは、何十年も前から知られていました。そこを科学者がよく調べたら、小屋が建てられたのは1021年と判明したのです。

1021年「ごろ」じゃない、ぴったり1021年。ちょうど千年前。
なんでそんなに正確にわかるのか。それは建物の材木を調べたからです。「放射性炭素14の年代測定」と呼ばれる方法で、材木が伐採されたのは1021年と判定しました。
世界中どこの木を調べても、特定の年輪には炭素14が多い。よく知られているのは西暦774年から5年にかけて、もうひとつは992年から3年にかけてです。
逆にいえば、古い材木が出てきたとき、その年輪を詳しく調べればどこが774年か、992年かがわかる。そこから、その木が西暦何年に伐採されたかわかります。

詳しいメカニズムはともかく、へえー、と思うのはこの先です。
特定の年の年輪に放射性炭素14が多く含まれることを発見したのは、名古屋大学の宇宙線物理学者、三宅芙沙さんでした。まだ若い女性研究者です。その発見は、屋久島の屋久杉を調べることで確認されました。すでに切り出されて保存されてい屋久杉をしんぼうづよく調べ、西暦774年と5年の年輪に、炭素14の異常な増加を認めたのです。このみごとな論文は2012年、権威ある科学誌ネイチャーに掲載され世界標準になりました。

世界中どこでも、古い木の年輪を調べればどこが西暦774年のものかわかる。
だから今回のニューファンドランドの調査も、「フサ・ミヤケの現象」をもとに年代を確定し、1021年と判定したのでした。とはいえ、そこにいたはずのバイキングがその後どうなったかまではわからない。
じゃあ何なんだよ、といわれるかもしれません。
そんな年代がわかったからって、何がどうなるもんでもない。でもぼくはこういう物語にひかれるのです。フェイクニュースや陰謀説よりもずっとおもしろい。これこそがリアルな世界という実感を覚える。
そういう実感こそが、フェイクを信じる人にとってはスノッブ以外のなにものでもないとわかってはいるつもりだけれど。
(2021年10月21日)