半息のオオカミ

 オオカミを米連邦政府の保護下におく、という裁判所の決定が出ました。
 これで乱暴な人間たちに殺されるオオカミが少しは減ります。ひとまず朗報、でもオオカミの苦難はつづきます(Wolves Will Regain Federal Protection. Feb. 10, 2022, The New York Times)。

 カリフォルニア州の連邦地方裁判所は10日、アメリカ国内のオオカミ(ハイイロオオカミ)の多くが生存の危機にさらされているとして、連邦政府の魚類野生生物局に対し、オオカミを連邦法の保護下におくよう命じました。この決定により、トランプ政権のもとで保護政策が放棄され復活していた「オオカミ狩り」が、ふたたび制限されることになりました。
 とはいえ、これでオオカミが安心して暮らせるようになったわけではありません。

 アメリカのオオカミは、乱獲によって20世紀にはほぼ絶滅しました。オオカミから家畜を守ろうとした農民や毛皮業者、たんに狩りを楽しむハンターが手あたりしだいに殺戮したためです。オオカミは人間を襲う凶悪な動物という、誤解と偏見が強かった時代です。
 オオカミへの理解が進み、自然界にオオカミを取りもどそうという動きが起きたのは1990年代になってからでした。カナダなどに残っていたオオカミ31頭が、イエローストーン国立公園に「移植」され順調に繁殖するようになりました。シカを捕食し、自然環境の維持にも貢献しています。
 そのオオカミが、いまや6千頭にまで増えました。

イエローストーン国立公園

 勝手きわまる人間は、こんどはオオカミの間引きをはじめました。2011年、連邦議会がワイオミング、モンタナ、アイダホの3州ではオオカミを保護リストから外したのです。以来ふたたび、かつてのようなオオカミ狩りが復活しました。
 オオカミにとっての不運は、これら3州がいずれも白人の保守共和党、鉄砲フェチの人びとの支配下にあることでしょう。

 今回の裁判所の決定も、この3州には及びません。オオカミは州境を越えてワイオミングに入れば、殺されても文句がいえない。そういう不安定な境遇です。とても一息つくほどには安心できない、「半息」どまりというわけです。

 似たような現象はヨーロッパでも起きている。スペインやスイスで、かつて絶滅したオオカミが復活しつつあるけれど、そういう国ではすぐに殺そうとはしない。オオカミへの対応に、銃社会アメリカの病理があらわれています。
 オオカミよ死ぬな、と願うばかりです。
(2022年2月11日)