収穫の秋

 10、11日、2日間にわたって稲刈りでした。
 前の日が雨で田んぼがぬかるんでいたものの、暑くなく寒くなく、絶好の日よりです。
 2日間でのべ50人ほどが参加したでしょうか。当初はスタッフだけの少人数でといっていたのが、結局デイケアのメンバーもかなり参加しました。小学生から80歳の老人まで。

 浦河ひがし町診療所の田んぼは、およそ1反。
 稲刈りといっても、ただ稲を刈ればいいわけではない。刈った稲を運び、紐で束ね、それをまた運んで“はさがけ”にする、といった一連の作業があります。コンバインを使えば30分もかからないところを、みんなでわいわいいいながらの2日間でした。

 疲れるけれど気分はいい。
 広い田んぼに出て、自分にあった作業を自分のペースで進める。
 そうしていると、メンバーはふだん見せない表情を見せます。
 重い統合失調症で意思疎通がままならず、仕事なんてとてもできないと思われたメンバーが、「はい、これ持ってって」と稲束を渡され、ちゃんと運んでいきます。頼んだスタッフが驚いていました。あ、この人、こんなに動けるんだと。
 でもだんだんわかります。こんなに動けるのは、いちばんなじんでいる看護師にいわれたときだけ。それ以外はうまく作動しない。
 田んぼ作業をすると、見えなかったからくりも見えてきます。

 2日目の午後3時、すべての稲をはさがけにし、ことしの作業は終わりました。
 それを見届けたかのように、診療所の精神科医、川村敏明先生が姿を現します。「いちばん働いた顔して」記念写真に収まりました。そのまわりで、写真は苦手だとか、ただただ疲れたというメンバーが十数人、離れて散らばっています。このバラバラ感、同調圧力のなさが診療所の持ち味です。

 田んぼを診療所に貸してくれている小野寺さん(写真右端)も、ずっと作業に参加しました。稲を束ねながら、みんなに飲み物やアイスをふるまっています。カカシを田んぼの横に据えてくれたのも、稲刈り作業のみんなが自宅のトイレを使えるようにしてくれたのも小野寺さんでした。
 引きあげる間際、看護師のひとりがみんなに声をかけます。
 みんなもうトイレいい? じゃあこれから掃除するからね。
 立つ鳥跡を濁さず。

 診療の米づくりは7年目。
 地域のなかにしっくり埋めこまれた日常になりました。
(2021年9月12日)