シルボ、という言語があります。
声ではなく口笛で伝える言語です。西アフリカ沖、カナリア諸島のラ・ゴメラ島で使われてきた「口笛ことば」。週末のニューヨーク・タイムズ・マガジンが伝えています(‘Special and Beautiful’ Whistled Language Echoes Around This Island. Feb. 18, 2021, The New York Times)。

シルボは2009年、「十分に発達し、一定の話者に使われている世界で唯一の口笛言語」としてユネスコの世界無形文化遺産に登録されました。
口笛で、どうやって話をするの?
最初は何のことかわからなかったけれど、ビデオを見て納得。71歳のマルケスさんという人が、人里離れた山の上で実際にこの口笛言語、シルボを実演していました。
「こっちに来いよ、これからブタを解体するから」
この文章を、口笛で吹いている。

口笛といっても、口に指を入れて音を出す指笛です。その音程を高く低く、また間隔を長く短く取って、文章を伝える。
高い山の上で吹く口笛は、山の下にも、谷の向こうにも伝わります。条件がよければ5キロも伝わるとか。ブタを解体してお祭りだ、なんてときは、いっぺんに村中に知らせることができる。
とはいえ、シルボ自体は独自の言語ではありません。スペイン語のアルファベットのひとつひとつを、口笛の高低、長短で表している。いいかえれば、手旗信号やモールス信号のようなものです。でもモールス信号にくらべ、ずっと自然言語に近い。だから世界にひとつしかない「口笛言語」とユネスコが認定したのでしょう。
シルボを誇りに思っているマルケスさんは、これは「島の詩」なのだといいます。「詩のように、口笛は特別で美しい。実用にならなくてもいいんだよ」
ラ・ゴメラ島でもシルボを使う人は減っています。でも感心するのは、ちゃんと法律をつくってこのことばの保護に努めていること。いまは学校の授業にも取りいれられているとか。小学生くらいだと覚えは早いようです。

指笛というのは、できるとちょっとかっこいい。でも、指笛で文章まで表現できたらかなり自慢できるんじゃないかな。ラ・ゴメラ島の6歳児は、「青い靴をはいている子の名前は何ですか」なんていう「指笛文」が、ちゃんとわかるんだそうです。
(2021年2月20日)