「台湾有事」をめぐるひとつの論考が、気になっています。
中国が台湾への軍事行動を起こすとしたら、どんな形がありうるのか。
このことについて、ワシントンのシンクタンク、CNAS (Center for a New American Security) が先月ひとつのレポートを出しています。「中国による限定的な軍事侵攻に、アメリカは有効な対処ができない」という内容です。
アメリカの軍事、外交の専門家が議論と検討を重ねて出した結論。そこには、日本の議論にはない現実感がありました(In Taiwan war game, few good options for U.S. to deter China. October 25, 2021, The Washington Post)。

ぼくなりに要約すると、こういうことです。
中国による限定的な台湾侵攻はさまざまな形が考えられるが、そのひとつは台湾の南西400キロの洋上にある東沙群島を電撃的に侵攻することだ。ここには500人の台湾軍が駐留している。そこを占拠することで、中国は台湾問題の主導権を握るだろう。
そういう中国の軍事行動が起きた場合、アメリカはどうするか。
ほとんど何もできない。だからそうなる前に何ができるか、またそうなったあとでどうするか、あらかじめ考えておかなければならない。

東沙群島、そういう手があったか。
さすが専門家の議論。彼らがアメリカ国防総省などの議論に通じていることを考えれば、これは荒唐無稽なシナリオともいえない。
でも報告書の後段を見ると、甘いとも思います。
そういう事態が起きたら、アメリカと台湾は日本の協力なしに中国には対抗できないといっている。でもそういう場面で日本が力を発揮するとは思えません。そこは、CNASのみなさんにも誤算があるんじゃないでしょうか。
中国から見れば台湾統一。ぼくらから見れば台湾侵略。
そのための軍事力を、中国は2025年までに獲得するという専門家もいます。
中国は南沙諸島をはじめ、フィリピンからベトナムにいたる広い海洋の権益を固めてきました。そこから台湾へ。2014年、ロシア軍がウクライナのクリミアを占拠した行動が重なります。

こういうことで安易な議論をするのは危険です。でも議論しないことも危険です。いちばん危険なのは、ぼくらが議論のしかたを知らないことかもしれない。防衛庁や官邸の“専門家”だけに任せておいてはいけない。にもかかわらず議論自体が避けられている議論。
どうすればいいんだろうか。
(2021年11月15日)